シカの侵入を防止するネット。ネット内は下草が生い茂るが、外はシカが食べない植物しか生えていない(京都府南丹市美山町・京都大芦生研究林)

シカの侵入を防止するネット。ネット内は下草が生い茂るが、外はシカが食べない植物しか生えていない(京都府南丹市美山町・京都大芦生研究林)

 原始の森と呼ばれる京都府南丹市美山町芦生の京都大芦生研究林。現地散策ツアーに記者が参加し、魅力と現状を体感した。

 「芦生の森はプリンのような形で、上部は高原になっている。冷温帯と暖温帯、日本海型と太平洋型の両方から生物が来るので、多様性が高い」

 ツアーの初めに、京大フィールド科学教育研究センターの伊勢武史准教授(植物生態学)が、芦生の森の特徴を研究林事務所内の建物で説明した。約4200ヘクタールの半分に天然林が残り、京都丹波高原国定公園の中でも重要な地域だ。

 一行は特別に許可されたバスで出発。くねくねした林道を上っていく。約11キロ離れた長治谷に到着。標高は約640メートルで、もやに包まれていた。

 一角にネットで囲まれたエリアがあった。研究林では2000年ごろからシカの食害が深刻化し、下草や貴重な植物が食べ尽くされている。ネットでシカの侵入を防ぎ、植生を調べる試験が行われている。内側は、さまざまな植物が繁茂するが、外側はイグサやイワヒメワラビがぽつぽつと生えているのみ。

 ネーチャーガイドの長野敏さん(71)=南丹市美山町=は「昔はカヤが生えていたが、シカが食べて絶え、すみかにしていた渡り鳥も来なくなった。シカが食べない植物しか残らない」と語る。

 長野さんの植物の説明を聞きながら、由良川源流沿いの林道を歩いて下っていく。シカが食べない毒草・バイケイソウが川の近くに大量に繁茂しているのが目立つ。ツルアジサイがスギに巻き付いて白い花を、アカモノが林道脇に白と赤の釣り鐘型の花を咲かせていた。新緑の森の中でブナも生えている。

 見どころの大カツラに到着。高さ約38メートル、幹回りは約10メートルで、その大きさに息をのむ。樹木に着生した15種類の植物が共生し、春にはヤマザクラが咲く。

 さらに下ると、トチが居並ぶトチノキ平に至った。威風堂々たるトチの横にはスギが生えているが、トチよりも低い。植物は枝ぶりや根で競争しながら生きているからだ。長野さんは「樹木の競争が終わると、木と木の間隔が10~20メートルになり、心地いい距離感で大きな木が生える空間になる」と説明する。

 巨木は悠久の時を経て育まれてきた貴重な存在だ。シカの食害は生物多様性に危機的な影響をもたらしていた。自然を守るために何ができるのか、多くの人に考えてほしい。

■京大芦生研究林とは

 滋賀県、福井県に接する森で京都大が1921年から99年契約で地元共有林を借り受けている。一般の入林には、1人の場合は研究林事務所に申請が必要で、2~9人はポストに届け出を出す。入林できるエリアに規制がある。大カツラは京大が協定を結ぶ団体のガイドツアーで見学できる。研究林事務所0771(77)0321。