劇場作品「響け!ユーフォニアム」の一場面が掲載されている莵道高の学校案内パンフレット。同高の藤棚や眺望が描かれている

劇場作品「響け!ユーフォニアム」の一場面が掲載されている莵道高の学校案内パンフレット。同高の藤棚や眺望が描かれている

 繊細でリアルな描写は、丁寧な現場取材に裏打ちされていた―。京都市伏見区の「京都アニメーション」第1スタジオの放火殺人事件で、本社がある宇治市を舞台にした作品「響け!ユーフォニアム」のモデルとなった高校には、作品づくりのため同社スタッフらが足を運んでいた。「熱心に校内を撮影する姿が思い出される」。対応した学校関係者はそう口をそろえ、今回の事件に深い悲しみを抱いている。

 「響け!ユーフォニアム」は、コンクール金賞を目指し、吹奏楽に打ち込む部員らの日常や友情を描いた青春ドラマ。主人公らが通う「北宇治高」は架空の設定だが、たびたび登場する音楽室は東宇治高(宇治市木幡)がモデルだ。

 最初の作品が放映される前年の2014年、東宇治高吹奏楽部は実際のコンクールの舞台裏も含め3日間ほど、複数のスタッフの「密着取材」を受けた。

 吹奏楽部の近藤和郎顧問によると、スタッフは音楽室や渡り廊下などの撮影に加え、ユーフォニアムをはじめ楽器の写真を撮ったりサイズを測ったり、演奏する部員の指の動きや口の形などもつぶさに観察して記録していた。劇場作品の取材で昨年対応した飯田欣吾副校長は「机の細かい傷など細部にカメラを向ける姿が印象に残っている」と振り返る。

 近藤さんは、後に送られてきた作品を当時の部員たちと見た。「キャーキャーと歓声が上がり、登場人物の髪形から『これって私ちゃう?』とうれしそうに話す生徒もいた」と語る。

 もっとうまくなりたい。絶対に負けたくない。部活動に懸ける高校生たちのそうした心理も見事に描き出しているとし、「アニメに真剣に取り組まれる姿に私も刺激を受けた」。作中のシーンに触れ、生徒の発奮を促すこともあるという。

 身近で大切な作品だから一層、「事件はあまりに大き過ぎて、かなり落ち込んだ」と近藤さん。しかし府大会のコンクールが迫る中、部員には「いま自分たちがすべきことを精いっぱいやり切ろう」と話したという。吹奏楽部は6日のコンクールで金賞に輝いた。

 北宇治高の正門や校舎などは、莵道高(宇治市五ケ庄)がモデルになった。17年と18年にスタッフを迎えたという左近正則・前莵道高副校長=現・城南菱創高副校長=の目にも真剣な姿が焼き付いている。

 「3~4時間おられ、後方も撮影できるカメラで廊下などを撮られていた。蛇口を見つめ、しずくがポチャンと落ちる様子をじっと撮影していた姿が特に印象深い。好きじゃないとできない熱心さで、作品を見ると写真と見違えるほどそのままで驚いた」

 藤棚がある敷地内の高台と通学路のシーンは許可を得て、中学生向けの学校紹介のパンフレットにも掲載した。「作品のモデルにしていただき、うれしく、誇らしく、感謝の思いでいっぱいだった。京アニ作品がこんなに愛されていることを事件を通して知るとは。許しがたいし、ただただ、悲しい」