時計の針を逆方向に回す暴挙である。

 米国のトランプ政権が地上発射型巡航ミサイルの発射実験を実施した。

 今月2日に失効した米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約で制限されてきた中距離核ミサイル開発の一環だ。

 条約に違反して中距離ミサイル開発を進めてきたとされるロシアや、軍備増強を続ける中国に対し米国の戦力を誇示する狙いがある。中国やロシアは早速、対抗措置を取る考えを表明した。

 トランプ政権が2月にINF廃棄条約の破棄を通告して以来、大国による軍拡競争の再開が懸念されてきた。それが現実のものになりつつある。

 憂慮すべき事態だ。

 実験は西部カリフォルニア州の島で行われ、500キロ以上先の標的に命中させた。

 米国はロシアがINF条約に違反してミサイル開発を進めているとして、2017年から条約の範囲内で新型ミサイルの開発を進めていた。

 今回の実験はその延長上にあるといえる。条約失効で制約が消え、米国は今後、さらに長距離を飛ばす技術開発を進める可能性がある。

 エスパー米国防長官はアジア太平洋地域への将来的なミサイル配備にも言及した。

 中国やロシアをにらみ、米国には日本をミサイル拠点の一つにする考えがあるのではないか。

 同長官は日本の岩屋毅防衛相に日本配備は具体化していないと伝えているが、米軍駐留権を明記した日米安保条約に基づけば、ミサイル配備は米国の判断で可能だろう。

 日本が標的となり、戦争に巻き込まれる可能性も高くなる。

 気になるのは日本政府の腰の引けた姿勢だ。

 政府関係者は「直ちに米国側に抑制的な対応を求めるというより、世界全体の安全保障に与える影響を総合的に判断していく」と述べた。悠長過ぎないか。

 唯一の戦争被爆国として、危険な核兵器開発競争をやめるよう求める必要がある。

 トランプ氏はロシアに中国を加えた3カ国で新たな核軍縮の枠組みを作りたい意向だが、中国は参加可能性を否定している。

 米国が本当に新しい枠組みを作りたいなら、核ミサイル開発の既成事実を一方的に積み上げるのはやめるべきだ。