大津地裁

大津地裁

 認知症の妻を刺殺したとして、殺人罪に問われた田部善一被告(86)の裁判員裁判の判決が22日、大津地裁であった。大西直樹裁判長は「身勝手で短絡的な犯行」とし、懲役10年(求刑懲役12年)を言い渡した。

 60年近く連れ添った伴侶を刺殺するという最悪の結末。公判で浮かび上がったのは、親族や福祉の勧めがあったにもかかわらず、認知症の妻の施設入所を拒み続けた被告の姿だ。専門家は「規範に自縛されがちな高齢の男性介護者の特性が現れた事件」と指摘する。

 判決などによると、妻が認知症と診断されたのは2011年ごろ。17年からは、週6日で通所介護や訪問介護を受けていた。田部被告が妻を介護することは少なかったというが、不慣れながらも2人の朝食を作るなどしていた。
 田部被告は、同年ごろから、自分の意に沿わない行動や言動を繰り返す妻に怒鳴ることが増えた。別居の息子や福祉関係者が協議し、妻の老人ホームへの入所を何度も勧めたが、拒否し続けた。息子2人の証言によると、昔から家族の意見を聞き入れず、「亭主関白」だったという。
 田部被告は公判で、妻の施設入所を拒んだ理由について、独居後の孤独死や経済的な不安の他、「(妻の入所を)周りから冷酷と見られると思った」と述べ、「入所の話し合いで私は蚊帳の外だった」と話した。話し合いが続く中で妻への不満を募らせ、何度も妻の首を刺す犯行に至った。
 男性介護者の問題に詳しい立命館大の津止正敏教授(地域福祉論)は「田部被告と同世代の男性は『黙って耐えるのが男』など特有の規範意識が強く、若いケアマネジャーや家族の意見を素直に聞けない人も多い」とした上で、「彼らの長い人生を肯定して本心を探るなど、専門的な支援ノウハウが求められる」と話す。