経団連が2020年春闘に向けた経営側の交渉指針を発表した。

 終身雇用や年功序列賃金に代表される日本型の雇用慣行が「転換期を迎えている」と提起し、賃上げも職務や成果を重視した配分が適切だとした。

 経済のデジタル化や国際化を背景に、国境を越えて即戦力人材の獲得競争が激化している。雇用のあり方を見直さなければ日本は生き残れない、という企業の危機感の表れと言えよう。

 だが、終身雇用の見直しや人材の流動化は、企業がリストラしやすい環境づくりにつながる恐れもある。働く者の権利は守られるのか。慎重な議論が求められる。

 指針は、終身雇用を前提に新卒者を採用して年功賃金で処遇する日本型雇用の比重を下げ、職務を明確にした「ジョブ型」雇用の活用を促した。人工知能(AI)やデータ解析などに携わる人材の確保が念頭にある。中途採用や通年での採用の拡大も提起した。

 競争環境がめまぐるしく変わる中、変革を起こせる社員を輩出するには、新卒者を社内研修で育てるだけでは間に合わない面はあろう。採用の通年化は、意欲や能力があっても非正規労働を余儀なくされている人たちに就労の道を開くことにもなる。

 ただ、雇用が不安定になっては意味がない。バブル崩壊後、多くの企業が人件費を抑えるために正社員を減らし、契約社員や派遣社員への置き換えを進めた。人材確保は待遇とセットで語らなければならない。

 賃上げに関しても、指針は「脱・年功」を鮮明にした。

 2%のベースアップ(ベア)を求めている連合の春闘方針を「月例賃金引き上げ」に偏っているとけん制し、業種横並びの賃金交渉が実態に合わなくなっていると指摘した。ベアは「選択肢になりうる」としつつ、成果重視への見直しを求めた。

 職場への先端技術の導入などで、労働者が担う仕事は様変わりしている。一部の労働組合では、組合員の人事評価に応じて個人のベア額に差を付ける制度の提案を検討する動きも出ている。

 働き方改革や社員の「学び直し」支援を挙げ、春闘を「総合的な処遇改善」の場にしたいとする経営側の呼び掛けにどう応じるか、労組側も問われよう。

 雇用慣行の見直しなど抜本的な改革には時間が必要だ。労使が通年で協議する場を設け、議論を深めるべきだ。