京都アニメーション(京アニ)放火殺人事件を受け、大規模な災害や事件事故の際に負傷者の搬送情報を即時に共有できるシステムを求める声が、京都府内の医療関係者の間で高まっている。病院の受け入れ態勢や搬送先を瞬時に把握することで、多くの負傷者を迅速に分散搬送できるという。近畿でも京都は整備が遅れており、現場の医師は「助かる命が救えなくなる恐れがある」と危ぐしている。

 消防資料によると、事件当日、負傷者36人が京都市と京都府宇治市、久御山町の8病院に分散搬送された。市消防局は2012年の東山区祇園の暴走事故などを教訓に医療機関との連携を強めていたとして「(搬送に)問題はなかった」と話す。
 一方、病院間の情報共有は、現場に入った医師が自ら搬送情報を集め、医師同士の私的なメーリングリストで伝えるしか方法がなかった。重症のやけど患者を治療できる病院は限られるため、情報収集システムがあれば二次搬送がより迅速に進むという。
 府の基幹災害拠点病院で京アニ事件でも出動と治療を担った京都第一赤十字病院(東山区)の救命救急センター長、高階謙一郎医師(59)は「関係者の努力でうまくいっただけの可能性もある。情報共有システムは必要」と強調する。
 既に導入している滋賀県や大阪府、兵庫県のシステムは、負傷者多数の事案が起きた際、消防局が各病院にあるパソコンなどの端末の警報音を鳴らし、事案の概要と搬送が必要な人数・症状を送信する。各病院は「赤(重症)2人」などと受け入れ可能人数を症状別に入力。消防局と各病院は入力情報や搬送状況の一覧を端末で確認できる。
 全国で最も早い03年に導入した兵庫県の県災害医療センター副センター長の川瀬鉄典医師(58)は「重大事案が発生した際、医療機関が素早く危機意識を高めることができる」と強調。訓練を重ね、多い年で40回も活用する。府県境付近で起きた13年の京都府福知山市露店爆発事故ではシステムを使うことで県内の病院へ迅速に二次搬送できたという。
 9月に導入した滋賀県は多重事故などで既に3回活用した。大津市の園児死傷事故の時は未稼働だったが、現場が救急病院の近くで素早く搬送できたという。県医療政策課は「発生場所次第では問題が生じた恐れがある。システムができて心強い」と強調。導入費用は約380万円で収まったという。
 京都府医療課は、15年にタブレット端末約200台を各消防本部や病院などに配布したことで「類似のシステムを導入している」と説明する。だが、この端末では病院側は情報を得ることができない上、運用は京都市が除かれている。訓練も行われておらず、使用実績はゼロという。府と京都市で共用できるシステムの導入は、両者のソフト更新時期が違うことなどを理由に見送られたという。
 府医療課は「課題があるという認識がなかった。今後、他府県の状況を調査し、京都市とも協議したい」としている。