ほとんど目の見えなかった女性患者が手術を受けて、日常生活に支障のない程度にまで視力が改善したという。

 大阪大の西田幸二教授(眼科学)のチームが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)で作ったシート状の角膜組織を移植した。

 世界初の臨床研究で、7月の実施後、拒絶反応などの問題は起きていない。ほかの患者らから「夢のような話だ」という声が上がるのも、うなずける朗報だ。

 女性は、角膜のもとになる細胞が失われて視力が低下し、失明することもある「角膜上皮幹細胞疲弊症」と診断されていた。

 同様の疾患や事故、感染症などで角膜が損傷した場合、亡くなった人から提供を受けて、治療するのが一般的だ。

 ところが、移植を待つ患者は今年3月末現在で約1600人に上るのに、昨年度の提供者は720人しかいない。角膜は、慢性的に不足している。

 備蓄してある他人のiPS細胞を使って用意すれば、そうした状況を打開できよう。

 今回の臨床研究は、年内に2例目、来年にも2例の実施を予定している。5年後をめどに実用化する意向もある。

 多くの患者が、視力の回復に希望を持てるような成果を、期待したい。

 ただ、最新の治療法だけに、未解明な点は多い。

 改善した視力が、その後も維持されるのか、経過を詳しく観察しなければならないだろう。

 また、腫瘍化や手術に伴う副作用が起きないか、懸念される。安全性に関しては、細心の注意を払うべきだ。

 「1例目が始まったばかりで、慎重に見ていく段階だ」(西田教授)との認識を忘れずに、研究を進めてもらいたい。

 iPS細胞を利用した臨床研究は、2014年に理化学研究所チームが着手した網膜細胞の移植に始まり、パーキンソン病患者を対象にした京都大の取り組みなどが続く。

 iPS細胞は、創薬分野の研究でも大いに活用されている。

 これらの実用化が視野に入ってくると、新たな治療法の普及についても考えておきたい。

 必要な時に使えるようiPS細胞をストックしておく事業は、京都大が運営してきたが、今後は外部の財団法人に移管する。大量生産によって、コストダウンを実現することが肝要だ。