京町家を改修した開発拠点。居間では外部も巻き込んだ催しが開かれる(京都市中京区・Sansan Innovation Lab)

京町家を改修した開発拠点。居間では外部も巻き込んだ催しが開かれる(京都市中京区・Sansan Innovation Lab)

 全国8カ所目となる京都のオフィス探しは難航した。飲食に特化した人材紹介を手掛けるクックビズ(大阪市)で、各地への進出を担う岡本哲郎取締役は「これまでで一番苦労した」と振り返る。「求職者と会って希望や条件を話し合う場になる。アクセスの良さは必須」といい、四条烏丸、四条河原町、京都駅周辺の3カ所に絞って動き回った。一時はあきらめかけたが、何とか四条烏丸にオフィスを確保できた。
 近年、京都市中心部ではオフィス不足が深刻化している。ホテル開発につられた地価上昇により、収益性で劣るオフィスビルの建設は停滞。オフィス仲介大手の三鬼商事(東京)によると空室率は1%台が続き、企業の希望に合う物件の確保は極めて難しい。延べ1千坪(約3300平方メートル)以上のビルは、10年近く新築が途絶えている。
 不動産鑑定を手掛ける一信社(中京区)の百合口賢次社長は「オフィス需要は四条烏丸や京都駅北側の一等地が中心。好立地なら少々高くても需要はあるが、まとまった土地がない」と指摘する。市の高さ規制で既存建物の増床も難しく、ビルの新陳代謝も進まない。
 企業の京都への注目度は高い。国際的な知名度に加え、歴史に育まれた文化や集積する大学の知を生かそうと、無料通信アプリのLINEやパナソニックが相次いで開発やデザイン部門の拠点を京都市内に設けた。
 名刺管理アプリを手掛けるITベンチャーのSansan(東京)も2018年、市中心部の町家を借りて研究開発部門のオフィスを開いた。エンジニアの作業スペースの横には、社外を巻き込んだ勉強会や交流会を開く居間が広がる。同社は「京都は優秀な人や面白い企業が多い街。この場所をコミュニティーの拠点にして盛り上げていきたい。そのためにも中心部にほしかった」と言う。
 名刺の画像認識の精度を左右する人工知能(AI)の専門人材は獲得競争が激しく、「海外や京都の大学の人材採用でも、この場所は強みになる」。
 最近はホテル建設ラッシュが落ち着きつつある一方、富裕層のセカンドハウス(別荘)や都心回帰に支えられた高級マンション需要が復調。中心部のまとまったオフィスの供給は当面難しいとみられる。いずれは京都オフィスの拡張を見据えるクックビズの岡本取締役は「広くなるほど探すのが難しくなりそうだ」と懸念する。

■「博物館都市になる」 人材流出危ぶむ

 京都市の景観政策を議論した検討委員会は、昨年4月の答申で一部地域の高さ規制緩和など政策の見直しを求めた。「オフィスが不足し人材が流出している。このままでは観光客ばかりの『博物館都市』になる」。門内輝行委員長(京都大名誉教授)は答申後の会見で危機感をにじませた。
 高齢化が進み、人口減に転じた京都市。今後を見据え、働く場や人をつなぎ止め活力を維持しようと、市は答申を受けて高さ規制緩和などの具体化を進める。
 繊維から機械、電子部品と時代に合わせ製品は変わったが、京都市は歴史的に「ものづくり」、製造業の存在感が大きい。2016年度の市内総生産に占める割合は首位の23%。観光でにぎわう宿泊・飲食サービス業の3%を大きく上回る。京都市役所で長年産業振興に携わった龍谷大の白須正教授(地域産業政策)は「京都の財産は、大学の圧倒的な研究力と人材供給、伝統産業の蓄積、大手を支える高い技術を持つ地場の中小企業だ」と指摘する。
 企業立地の需要は外部からの進出とともに、こうした地場企業の成長による研究や試作拠点の新設もある。そこで重要なのは企業の集積や大学への近さ。土地不足は中心部にとどまらない。白須教授は「京都には知や人材など産業振興に必要な要素は、土地以外そろっている。市有地の有効活用や農地転換など工夫の余地はある」と話す。

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 2月2日投開票の京都市長選へ。身近な市政課題を随時取り上げていきます。