10年間引きこもっていた山崎さん。今は支援団体の運営を手伝いながら、自立を目指している=京都市内

10年間引きこもっていた山崎さん。今は支援団体の運営を手伝いながら、自立を目指している=京都市内

 引きこもりが長期化し、中高年の子と高齢の親が社会から孤立する「8050問題」が課題だ。京都市の引きこもりの人は推計約1万3500人で、うち40~64歳が約6900人。市の窓口に寄せられる相談件数は推計人数のわずか1・7%程度で、人知れず孤立に陥っている家庭は多いとされる。2月2日投開票の京都市長選でも各候補が問題を認識し、対策を訴えているかが問われる。親と子。それぞれの立場から当事者の思いを聞いた。

■39歳男性、不安と焦りの10年 暴力で発散、思い言葉にできず

 昼夜逆転の生活。寝て起きて、テレビを見ての繰り返し。この先どうなるのか、なぜ自分はうまくできないのか―。市内に住む山崎達也さん(仮名・39)は、不安と焦りを抱え、10年間を過ごした。
 きっかけは、中学生の頃に受けたいじめだった。何とか進学した高校にもなじめず1年生の秋に中退。「他人がこわい」。大学入学資格検定を受け短大に進んだが、人間関係のもつれで半年で辞めた。部屋に閉じこもり、気付けば30歳を超えていた。
 当時は母と姉の3人暮らし。家から出ない山崎さんに母は厳しかった。苦労をかけているという思いはあったが、うまく言葉にできない思いを、母への暴力で発散したこともあった。
 転機は母が相談していた支援団体の男性との出会い。何を話しても否定せず、家族には言えない本心を話せた。当事者の会に顔を出すようになり、今は運営を手伝いながら、悩む人の声に優しく耳を傾ける。
 母は2年前、肺がんで亡くなった。姉と看病をする中で、最期は母を好きだと思えたという。山崎さんは昨年に1人暮らしを始め、職業訓練校への入学を目指している。「引きこもっていた10年間に後悔もある。でも、あの頃はああしかできなかった」

■73歳女性、家を出て距離置く 44歳長男の連絡、自立のため返信せず

 室内は足の踏み場がなく、まっすぐに歩くことすらできない。市内在住の山下恭子さん(仮名・73)の長男(44)は、高校で留年して学校を休みがちになり、引きこもるようになった。家には長男が夜中、道で拾ってくる古本などの廃品がたまっていった。
 夫は「怠けている」と長男を叱り、「しつけないお前が悪い」と恭子さんを責めた。20年前に夫が亡くなり、貯金や寡婦年金を頼りに暮らした。長男の精神状態は不安定で、「俺の不安な気持ちが分からないのか」と夜中に起こされる。不眠が続く。家族の話題が出るのが嫌で近所付き合いも避けた。家はごみ屋敷と化し、近所から苦情も寄せられた。
 「息子さんはお母さんに依存している。一度距離を置いたほうがいい」。支援団体の助言を受け昨春、恭子さんは家を出た。統合失調症の診断を受けた長男は、障害者年金や支援団体のサポートを受け1人で暮らし始めた。しかし、自分が居なくなった後を思うと心配は尽きない。
 「お母さんですか?」。恭子さんのスマートフォンにある日、メッセージが届いた。発信元は、緊急用に電話番号を登録していた長男。「今は自立を妨げたくない」と、返信はぐっとこらえた。「息子も頑張っている。つらいこともあるやろうけど、こんな人生もあるんだと思って生きていってほしい」
 市は2020年度の上半期にも、当事者の年齢や介護、障害など課題別に異なっていた相談窓口を一元化し、特に手薄だった中高年への支援を強化する。いじめや貧困、介護など複数の問題が複雑に絡み、家庭ごとに事情が異なる引きこもりの支援は容易ではない。支援者からは、行政や地域とのネットワークの構築や、長期的な寄り添い型の支援の必要性を指摘する声があがる。