日本で品種改良を重ねた和牛の遺伝子保護に向け、国が法整備に乗り出す。

 受精卵や精液を不正に入手したり、断りなく第三者に転売したりした場合に刑事罰を科せるようにする内容で、開会中の国会で関連法案の成立を目指している。

 和牛は海外で高い人気を集めている。遺伝子が流出して海外で安価に生産されれば、国内の生産者には大きな打撃となる。

 受精卵などの遺伝資源を「知的財産」と見なして保護を図るといい、その意義は大きい。法規制と併せ、確実な流出阻止へ、実効性ある対策を講じてほしい。

 新法では、不正に流通した遺伝資源と知りながら第三者が海外に輸出した際にも罰則を適用する。遺伝資源が悪用されると事前に分かれば、譲渡先の業者らに使用や輸出の差し止めを請求できるようにもするという。

 和牛の遺伝資源を巡っては、2018年に受精卵などが中国へ不正に持ち出される事件が発生し、関係者が有罪判決を受けている。

 ただ、農林水産省は当時、持ち出そうとした男らを、伝染病のまん延を防ぐための家畜伝染病予防法に違反した疑いでしか刑事告発できなかった。海外流出を直接罰する法律がなかったためだ。

 罰則を伴う新法は、こうした不正な持ち出しに一定の抑止効果はあろう。だが、18年の事件で男らは、同様の手法で過去に複数回、不正に受精卵などを持ち出したと供述している。遺伝資源の流通や在庫が全国的に把握できておらず、不正輸出を水際で食い止められていないことを示した。

 農水省は既存の法律も改正し、受精卵などの流通履歴の記録を義務付ける方針だが、不正流出を防ぐ管理態勢についても再構築することが不可欠だ。

 海外では「WAGYU」と銘打った日本産以外の牛肉がすでに出回っている。イチゴやブドウなどの農産物も一部の品種が海外に流出し、栽培されていると指摘されている。

 同省は植物についても、新品種の無断栽培を差し止められるよう海外での品種登録を強化するほか、苗の海外転売も制限するが、農畜産物に関する国の知的財産権保護対策は後手に回ってきたと言わざるを得ない。

 人口減少で国内市場が縮む中、農産物の輸出に活路を見いだす生産者は多い。政府は輸出拡大へ旗を振るだけでなく、日本の農産物のブランド力を守る努力も続ける必要がある。