ポスターの配布に合わせて、本人確認を徹底するようガソリンスタンドの店長に要請する中京消防署員(29日、京都市中京区)

ポスターの配布に合わせて、本人確認を徹底するようガソリンスタンドの店長に要請する中京消防署員(29日、京都市中京区)

 36人が犠牲になった京都市伏見区の京都アニメーション第1スタジオの放火殺人事件を受け、2月1日からガソリンの販売規制が全国的に強化される。容器に詰め替えて販売する場合は客の身元や用途の確認と、販売記録の作成がガソリンスタンド(GS)に義務付けられる。心理面での犯罪抑止効果が期待される一方、目的を偽る客への対策などが課題となりそうだ。

 この事件で、青葉真司容疑者(41)=殺人などの疑いで逮捕状=は現場近くのGSで携行缶を持参してガソリン40リットルを購入し、一部をスタジオの1階にまいて着火したとみられる。
 現行の消防法令では、ガソリンの購入はGSに金属製携行缶を持ち込めば60リットルまで、プラスチック製容器なら10リットルまで可能。GSは身元確認する必要はない。今回の事件でGS側には違法な販売行為はなかったという。
 総務省消防庁は昨年12月、消防法関係の改正省令を公表。1日施行の改正省令などによると、GSは、容器に詰め替えて買う客には運転免許証などを求め、氏名や住所、目的を確認。販売日や数量も記録し、1年を目安に保存しなければならない。違反業者には罰則を設けている。
 京都市消防局は事件後間もない昨年7月下旬に市内の全GSを回り、詰め替え販売時の本人確認と記録化を指導した。事件が起きた地元自治体であり、同局は、市内のGSの多くは1日からの義務化に先立って自主的に本人確認を実施済みとみるが、「省令改正で法的根拠ができ、確認を拒んだりする客にも強く対応できる」と期待する。
 購入者向けに新制度を説明するポスターも配り始め、29日は中京消防署員が中京区のGS「上原成商事市役所前SS」を訪れた。中村達店長(54)は「確認はこれまでからやっており、引き続き徹底する」と強調。「抑止力を高めるには携行缶購入時に消防への登録を義務付けるといった対策も要る」と、購入者への規制の必要性も訴えた。
 詰め替え販売は農機具の燃料にガソリンが使われる農村部で需要が大きい。京都府京丹波町の農家の男性(76)は草刈り機用に2~3カ月に1度、10リットルのガソリンを買う。「買う時の手間は増えるが、危険を回避するためには仕方ない」と話す。山西さんが使う同町のGS「出光丹波SS」の店長中田康博さん(39)は「個人情報なので保管に気を付けなければ」と気を引き締めた。
 実効性を不安視する声もある。アウトドア用などの容器入りガソリンはインターネットやホームセンターで買えるが、規制強化の対象外だ。GSの業界団体「全国石油商業組合連合会」(東京都)は省令改正の意見公募でネット事業者などへの対策を要望。総務省は模倣犯抑止を主眼に詰め替え販売のみを対象にしたとし、容器入りガソリンは「方策を検討する」と答えるにとどめた。
 また、新制度は常連客には身分証提示の省略を認める負担軽減策をとったとはいえ、同連合会は「人手の少ないGSには重い労務負担になる」と懸念する。
 確認にも限界がある。用途に関しては客にうそをつかれると「見抜くのは難しい」と市消防局はいう。消防庁の担当者も「問いただした時の挙動を注意深く見て判断してもらうしかない」と話す。