観光客を出迎える旅館「嵐山辨慶」のスタッフ。宿泊バブル対策では、異なる課題を持つ施設に対して丁寧な政策が求められる(京都市右京区)

観光客を出迎える旅館「嵐山辨慶」のスタッフ。宿泊バブル対策では、異なる課題を持つ施設に対して丁寧な政策が求められる(京都市右京区)

 好調な観光需要を追い風にホテルや簡易宿所が急増し、「宿泊バブル」の様相を呈する京都市内。市長選でも対応が争点となったが、地域の観光を長年支えて来た旅館だけは少し様子が異なる。施設数は減少傾向で、実態調査を進める業界団体によると、小さな宿を中心に経営は厳しさを増しているようだ。

 「訪日外国人は増えているというが、宿泊客は減っている。昨年5、6月ごろから潮目が変わった」。京都市右京区の嵐山で旅館「嵐山辨慶」を営む磯橋輝彦社長はつぶやく。これまでも収益率の高い自社サイトからの予約を増やすなど経営努力を続けており、「宿からの景観を生かし、空いた時間に抹茶などの体験を行えないか」と知恵を絞る。

 宿泊客が減った要因の一つと考えられるのが宿の増加だ。市内の許可施設は2019年末時点で3925と5年間で4倍近くに拡大し、ホテルの客室稼働率も低下している。

 ところが旅館は、11~18年で40施設以上減った。さらに過去の市の調査を見ると、実際に稼働しているのは許可施設の半数程度と推測される。京都は10室以下の宿が約4割と全国平均(6・5%)より大幅に多く、人手不足や後継者の不在が特に深刻な課題のようだ。

 市は16年に策定した宿泊施設拡充・誘致方針の中で旅館を「日本の文化を五感で感じられる施設」と位置づけており、国内外への魅力のPRや人材確保、経営改善に向けた支援を続けている。

 それでも旅館の客室稼働率(19年4月府内、観光庁調べ)は55・3%と、シティホテル(92・3%)などよりもかなり低い。さらに18年の旅館業法改正で旅館とホテルが同じ営業種別となったため、統計から実態が正確に把握できなくなる懸念も生じている。

 こうした中、約120施設が加盟する京都観光旅館連盟は18年から会員の実態調査を進めている。磯橋社長の父で、同連盟の克康会長はこれまで約80施設を回った。「ホテルが乱立し、昔ながらの旅館が置かれる状況は厳しい。特に家族経営の小さな宿は人手不足で決まった期間しか営業できない所も多い」と危機感を抱く。

 2日に投開票された市長選では、宿泊施設が大きな注目を集めた。市民生活との共存や、地価の上昇、オフィス不足など派生する課題は多く、早急な対策は当然求められる。

 一方で、各候補の訴えが「規制」に集中し、「支える」部分へのまなざしが伝わってこなかったのが気になった。増加する数字の奥に、業界ごとに異なる悩みがあり、人々の営みがあることを忘れず、丁寧な政策議論を進めていってほしい。