安倍晋三政権による司法人事への介入と受け取られかねない。

 政府は、7日に定年を迎える黒川弘務東京高検検事長(62)の勤務の半年延長を閣議決定した。国家公務員法に基づく措置という。

 検事長の「定年延長」は前例がない。稲田伸夫検事総長の後任に充てるためと見られている。

 検察庁法は定年を検事総長65歳、それ以外の検事は63歳とする。

 検事総長は内閣が任命する。

 黒川氏は菅儀偉官房長官との関係が深いともいわれており、仮に黒川氏が検事総長に就任すれば、政権が検察トップを恣意(しい)的に決めたとのそしりは免れまい。

 安倍首相は「法務省の人事だ」と繰り返し、菅氏も法務省からの要請があったと説明する。だが、なぜ定年延長が必要なのかについて、十分な説明が必要だろう。

 国家公務員法では、職務の特殊性や職務遂行上の特別な事情がある場合、1年を超えない範囲で勤務を継続することを認めている。

 黒川氏の場合、どんな事情があるのだろうか。森雅子法相は、重大で複雑・困難な事件の捜査や公判に対応するため「黒川氏の指揮監督が不可欠」と主張したが、詳細は明らかにしていない。

 ゴーン被告逃亡事件などが念頭にあるといわれるが、それなら半年程度の延長では済むまい。

 検察官の定年延長に国家公務員法を適用できるかも疑問だ。

 森氏は国会で「検察庁法は国家公務員法の特別法にあたり、特別法に書いていないことは一般法の国家公務員法が適用される」と説明したが、理解しにくい答弁だ。

 政治家への捜査を行う可能性もある検察官には、高い独立性が求められている。一般の公務員とは異なる法律で特別に定年を決めているのは、そうした理念に基づくためではないのか。

 政権による勤務延長は、黒川氏の今後の業務の正当性にも疑問符を付けかねず、三権分立の原則も揺るがしかねない問題もはらむ。

 安倍政権は2013年、「憲法の番人」ともいわれる内閣法制局長官に、集団的自衛権行使を容認する元外務官僚を起用する異例の人事を行い、安全保障関連法の成立に道筋を付けた。

 17年には日本弁護士連合会が推薦する候補者とは異なる人を最高裁判事に任命した。これも従来の慣行を破るものだったという。

 人事権を使い、官僚機構ばかりか司法まで支配下に置こうという姿勢は、政権の独善性をますます際立たせているように見える。