野村克也さんの著作がビジネス書として広く読まれているのは、そこに人や組織を動かす知恵が詰まっていると理解されているためだろう。選手やチームに関する洞察には説得力があった▼著書「負けに不思議の負けなし」では、監督は選手を叱るのとほめるのが仕事で、選手は監督の叱り方やほめ方を見ながら指揮官を理解する-と指摘、「信念に基づく大目玉はチームに不可欠」と断言した▼一方で、選手の性格をふまえた指導も忘れない。生真面目で内省的なタイプは「ほめて、おだてて、その気にさせるしかない」。監督時代、伸び悩む選手らを立ち直らせ、「再生工場」と評された▼したたかに考え抜く姿勢は若い頃からのようだ。京丹後市の峰山高からプロ野球に進む際、自分と同じ捕手の力量を全球団について独自に調べ、「いちばん手薄な南海(当時)に的をしぼった」とも▼だが入団後、肩の弱さを指摘されてショックを受け、日が沈むまで遠投を繰り返し、テニスボールを何度も握って握力をつけたという。こうした積み重ねが、現役時代の輝かしい記録と野球の本質を見抜く眼力を生んだといえる▼負けをどう勝利に転化させるかを常に考え続けたとも語る。人や組織を生かす観点で野球を見る面白さを教えてもらった人も少なくなかろう。