美山診療所の診察室で外来患者に、体の状態を説明する尾嵜さん(京都府南丹市美山町)

美山診療所の診察室で外来患者に、体の状態を説明する尾嵜さん(京都府南丹市美山町)

 医師の後継者不足で存続が危ぶまれている京都府南丹市美山町の美山診療所について、地域医療を考える重要な問題として追加取材してほしい。同町の読者から京都新聞社の双方向型報道「読者に応える」に声が寄せられた。診療所を取材すると、高齢医師が住民の命を守るために綱渡りで診療を続ける姿があった。

■南丹市が直営化へ医師確保に光も在り方模索

 国の重要伝統的建造物群保存地区の「かやぶきの里」に多くの観光客が訪れる山深い美山町。今シーズン初の積雪となった翌日の今月7日。残雪の中、美山診療所には多くの高齢者が診察に訪れていた。診察室で患者の過去のデータを見ながら、現在の症状を丁寧に聞き取るのは所長の尾嵜博さん(76)。公設民営の同診療所でただ一人の常勤医師だ。運営する医療法人財団「美山健康会」の理事長も務める。
 この日、診察を受けた男性(85)は「先生がいてくれて心強い。脳梗塞で倒れて以来、ずっと通院している。ここが無くなれば、通院がしにくくなり、殺されるのも同じという人もいる」と話した。
 美山町の面積は約340平方キロメートルで、兵庫県淡路島とほぼ同じ面積の南丹市の約半分を占める。人口は昨年3月末で3784人、高齢化率は46%。公共交通機関はバスのみで、常勤医がいる医療機関は美山診療所だけだ。

■退任意向を示すも

 尾嵜さんは午前中の診察を終えると、午後は車を運転して、美山町の在宅療養患者や老人ホームに向かう。
 車いすでの生活が続く男性(77)宅では薬を届け、最近の様子を聞き取り、採血も一人でこなしていた。在宅でのみとりがあると、休日でも京都市内の自宅から駆けつける。「診察のやりがいは都会でも田舎でも変わらない。人間は生まれ、弱って死んでいく。その人の個人史を聞き取り、どこに支援が必要なのか、判断してきた」
 76歳の尾嵜さんの後継者探しは難航した。「体力や知力に問題が出てきた」と、2018年7月で退任する意向を示してきたが人口減で患者が減り、赤字経営が続く診療所を継ぐ医師は見つからなかった。「臨床研修医制度で医師の分布が都市型、大病院に集中し、地方への人的供給が無くなった。人口流出でスタッフも患者を支える家族も減った」と振り返る。全国の過疎地が共通に抱える医師不足の課題がにじむ。

■過重負担懸念で辞退

 南丹市は、尾嵜さんが運営財団の理事長を兼任していることから経営責任の負担を減らして医師確保につなげようと、西村良平市長が昨年3月の議会で直営化検討を表明。市の医療対策審議会で診療所の在り方の議論が始まった。
 直営化の方針を受けて医師3人の勤務希望があった。中でも当時40代の医師が4月から赴任することが決まったが、過重な勤務負担への懸念から辞退した。
 その間、尾嵜さんは夜間診療を含めた週4日の勤務を続け、今年1月には日帰りの白内障の手術を受けて病院を守ってきた。帰宅する夜間の運転に不安があるため、当直室に泊まりこむ日もある。
 吉報が届いた。65歳の男性医師が4月から赴任する契約を美山健康会と結んだことが12日、明らかになった。

■入院病床など議論

 ただ、市は外来中心の直営診療所の運営を考えており、現在ある入院病床や併設する老人保健施設は休止する方針だ。西村市長は「入院病床は、働き方改革の中で医師の過重な負担につながる可能性がある。市の財政にも限度があり、公費で運営するため、規模縮小はやむを得ない。京都中部総合医療センター(南丹市)から医師を派遣する形をとって、安定的に医師が確保できる体制を取ることも考えたい」と説明する。
 美山の医療の灯をともし続けるために議論が続いている。