ご飯粒を粗末にするな、と親に諭されて育った人は多い。収穫するまでに八十八もの手間がかかるとされる米は私たちにとって特別な食べ物。一粒一粒にいのちが宿る▼心に重荷を抱えた人を青森県の山荘で受け入れ、手作りの食事を供して寄り添った福祉活動家の故佐藤初女さんは、素材を吟味、水加減や握り方に工夫を重ねたおむすびで、人を癒やし勇気づけた▼ご飯粒をつぶさぬよう、手のひらで包み込むように丸く握った。ラップで密閉すると味が落ちると、タオルでくるんで持たせた。自殺しようとした青年が、くるまれたおむすびに「自分のことをこんなに大切に考えてくれる人がいる」と心を動かされ、自殺を思いとどまったという▼4年前、94歳で亡くなったが、今月、大津市で農園や自然食レストランを営む岩田康子さんが生前の指導をもとに講習会を開いた。佐藤さんのおむすびを学ぼうと80人以上が集まった▼少し硬めに炊きあげたご飯に梅干しをのせ、両手でまあるく形づくって黒々としたのりで包む。手のひらで転がしていると「おいしくなあれ」と願いたくなる▼おむすびは握る人の心を伝えると佐藤さんは書き残した。食べることはいのちをいただくことだから、心をこめて料理しなさいと。少しずつでもそんな境地に近づきたい。