市販薬や処方薬の依存症の自助グループで胸の内を語り合う当事者ら(大阪府高槻市)

市販薬や処方薬の依存症の自助グループで胸の内を語り合う当事者ら(大阪府高槻市)

その日のテーマを決めて、それぞれ自分のペースで経験や思いを語る

その日のテーマを決めて、それぞれ自分のペースで経験や思いを語る

誰でも気軽に入れるようミーティング会場の扉の前に置かれた案内

誰でも気軽に入れるようミーティング会場の扉の前に置かれた案内

 芸能人の違法薬物問題が注目を集める。市販薬や処方薬への依存は増加傾向にあるが、その実態は知られていない。薬物依存症という病と向き合い、回復の道を歩む人たちにとって欠かせないのは、自助グループや家族会などで仲間と出会い、思いや体験を分かち合うことだ。京都府内や滋賀県内に市販薬や処方薬の依存症の自助グループはまだない。市販薬依存とは、回復を支える人とのつながりとは何か、当事者や家族の声を聞きに現場を訪ねた。

■10代で4割、2014年から大幅増

 ドラッグストアやインターネットで手軽に買える咳(せき)止め薬などを、高揚感などを求めて大量に摂取する市販薬依存。厚生労働省研究班の2018年全国調査によると、薬物関連治療を受けた患者2609人のうち、風邪薬や頭痛薬といった市販薬の依存症は5・9%。特に10代では市販薬依存の割合が4割を占め、14年調査のゼロから大幅に増えている。
 京都府精神保健福祉総合センターと滋賀県立精神保健福祉センターによると、それぞれ府内や県内で市販薬や処方薬に特化した自助グループや家族会は把握していないという。
 昨年秋、京都市伏見区の龍谷大であった依存症予防教育についてのフォーラム会場。質疑応答で、一人の女性が声を上げた。「関西に来てから夫が薬を大量に飲み、手に負えないとき、行政や医療の助けを求めても『市販薬でそんなことになるはずがない』とたらい回しにされた。東京では支援や理解があった」

■「風邪薬や鎮痛剤、一日中飲んでいる」
 後日、女性に取材した。東京から関西に引っ越してきたアヤコさん(46)=仮名、大阪市東成区。夫が市販薬の依存症という。「1日60錠くらいかな、とにかく何十錠も飲むの。一日中飲んでいる。胃腸薬や下剤やサプリなんかも含めて12種類くらい、ラムネ菓子を食べるように」。夫は2年前から、沖縄の回復施設に入所している。
 市販薬で興奮状態になった夫は「養ってやっているのをありがたく思え」「お前のせいだ」と言葉の暴力をふるい続けた。数時間、激高し、薬の効果が切れてくると、罪悪感で落ち込む。摂取する市販薬で夫の症状は違っていた。
 禁断症状で、眠る夫の体がバッタのように飛び跳ねる。うわ言のように「止めてくれ」とつぶやいた。多量摂取の副作用で夫は腸閉塞を発症し、入院した。
 アヤコさんの心は疲弊していったが、夫婦だからと耐えた。当時の自分の姿を、アヤコさんは少しうつむき、言葉を探しながら、ゆっくり語った。「ずっと怒っていた。怒っている自分のことも責めていた」

■止めても、隠しても、買えてしまう 家族の苦悩
 寝る前に風邪薬の黄色い錠剤を大量に摂取する夫。翌朝、布団には汗で黄色い人型ができていた。アヤコさん(46)=仮名=が「何でこんなことになるまで飲むの」と声を荒らげると、夫は「どうせ俺が悪い。いつもあなたは正しいことを言う」と何かを諦めたように言った。市販薬依存という病。アヤコさんは言い返せず、「彼も病気なんだ」と、何度も自分に言い聞かせた。
 飲むなと止めても、隠しても、すぐに市販薬は買えてしまう。財布を渡さず、ネットで購入できないようにしてもだめだった。市販薬依存症の夫との生活を、「悲しさや苦しさ、『夫は変わってくれるかもしれない』という期待が、ごちゃ混ぜになっていた」と振り返る。
 アヤコさんは現在、自助グループや家族会に参加、自分と向き合い人生を生き直している。夫とは別々の道を歩むことを選び、離婚協議を進めている。
 「同じ境遇の人に、パートナーはパートナー、あなたはあなたでいい。抱え込まず、誰かに話す勇気をもってと伝えたい。誰かに手を差し伸べることが私自身の回復にもつながるから」

■市販薬・処方薬依存症の自助グループ
 大阪にある市販薬・処方薬依存症の自助グループを取材した。MDAA(メディカル ドラッグ アディクション アノニマス)は東京で始まり、大阪は2018年にできた。昨年11月に高槻市内で開かれたミーティングには14人が参加。参加者はニックネームで呼び合い、自分のペースで思いや経験を語っていた。話し手以外は聞くことに徹し、質問や意見はしないのがルールだ。
 代表のヒロシさん(仮名)も処方薬依存の経験者。医療機関で処方された睡眠薬や抗うつ剤を手放せなかった。なくなれば、医師に処方箋をもらうために通院を繰り返した。大阪でMDAAが立ち上げられたのは「違法薬物依存のミーティングに、市販薬や処方薬の依存に悩む人たちは入りづらさを感じるとの声があったから」という。

■共感するものがあるからこそ
 共感するものがあるからこそ、語ることも聞くこともできる。「違法薬物と依存症として多くは重なるものの、違法かどうかという点で『自分はこの人たちとは違う』と感じる人もいる。誰になら語れるか、どこなら通い続けられるかを考え、場所を選ぶのは大事なこと。その選択肢は一つでも多い方がいい」とヒロシさんは語る。
 市販薬や処方薬の依存が病だとの認識は、社会や当事者自身も、まだ浅い。処方薬依存では、大量に処方する医師や病院にも責任があると指摘する人もいる。さらに、合法薬物としてひとくくりにされがちだが、市販薬と処方薬でも問題の捉え方が異なる部分がある。

 ヒロシさんは「苦しんでいる人に、あなたは一人ではないということを伝えたい。同じような経験をしてきた人たちが、自分以外にもたくさんいること。その人たちと回復できるということを知ってほしい。安心して語ることができる分かち合いの場が広がっていくことが目標」と話している。