目や鼻、口、あごの形や位置などで、本人かどうか見分ける顔認証システムが、日本でも広がりつつある。

 あらかじめ取得した顔データと、カメラに写った顔をコンピューターで照合する技術だ。

 「顔パス」で入場できるなど、さまざまな用途が期待できる一方で、監視社会につながりかねない危うさもはらんでいる。

 私たちの生活の中に顔認証の技術が入ってこようとする今、使い方や制限などについて議論しておく必要があるだろう。

 今夏の東京五輪に顔認証が採用され、大会関係者の入場口で使われる。成田や羽田の空港では、国際線搭乗口や出国審査に導入され、顔パスで海外旅行に出発できるようになる。

 荷物を抱えた旅行者らに便利というだけでなく、警備上の要請もあるのだろう。

 すでに顔認証でチェックインするホテルが誕生し、コンビニでも顔認証で入店し、買い物も自動計算でレジなしという実験が始まっている。

 顔認証が日常的に当たり前になる日は近いかもしれない。しかし、いくら利便性向上や不正防止に役立つといっても、プライバシーや人権の面から検討すべき課題がある。

 6年前の記事で、万引防止を目的に顔認証システムを導入した店舗が紹介されている。過去に万引が疑われた人物の顔を登録し、来店客全員の顔を防犯カメラで確認していたが、来店客は知っていたのかどうか。

 中国では人気歌手のコンサート会場で、6万人の聴衆の中から指名手配中の男を顔認証で見つけたという。顔認証の威力に驚くばかりだ。

 中国全土に2億台の監視カメラが設置され、「天網」と呼ばれる監視システムが浸透している。多くの国民は受け入れているようだが、イスラム系のウイグル族への人権抑圧に使われているといわれる。これも顔認証の一側面だ。

 英国や米国でも、警察が監視カメラや顔認証を使っているが、誤認逮捕もあるという。

 米サンフランシスコ市議会は昨年、警察や行政当局による顔認証利用を禁止する条例を可決している。市民のプライバシーや人権を守るのが狙いだ。健全な民主主義の下では顔認証は必要ない、という指摘を私たちも考えてみたい。

 顔認証は、顔を真正面から捉えるのが基本で、条件が良ければ99%の精度という。しかし、斜めからなどでは認識率は下がる。顔認証への過度な信頼が、人権侵害を招くこともあると心得ておくべきだろう。

 顔データは、個人情報保護法の改正で個人情報に当たることが明確になった。利用目的を本人に通知、または公表しないといけない。

 しかし、顔データの取得のあり方について国や業界に指針がないのが現状だ。商用や治安目的に、顔データが勝手に第三者に提供されないか。ルールづくりを議論する必要がある。

 顔認証が、社会に健全に活用されていくには、使う側と市民の間に信頼関係が築かれていることが欠かせないだろう。