水ぬるむころ、琵琶湖岸では鬼の角のような植物が地面から現れる。ヨシの新芽で、その形から「葦(アシ)の角」とも呼ばれる。緑色のタケノコにも似た芽は春の陽光を浴びてぐんぐん成長し、夏には3~4メートルに達する▼健やかな群落が育つよう、今の時季に行われるのがヨシ焼きである。香ばしいかおりと草木がパチパチとはぜる音は、春の訪れを感じさせる▼宇治川河川敷でヨシ原の保全に取り組む城陽市の「山城萱葺(かやぶき)」社長、山田雅史さん(51)は「放っておけば樹木が生えてやぶになるが、火を入れて土地をリセットすることで真っすぐないいヨシが育つ場所ができる」と話す▼身近な素材ゆえ、屋根の材料やすだれ、よしずのほか、楽器や漁具、肥料などさまざまな方法で利用されてきた。生活の洋風化と化学素材の登場で需要は減ったが、プラスチックごみの問題が深刻化する今、自然にやさしい素材はもっと見直されていい▼昔と変わらずヨシ原を必要としているのが、多様な生き物たちである。宇治川河川敷は西日本最大のツバメのねぐらとされる。琵琶湖では春になればフナやコイが卵を産み付け、カイツブリやオオヨシキリといった野鳥が巣をつくる▼人の暮らしを支え、多くの命を育むヨシ原。京都、滋賀の水辺でいつまでも残したい風景である。