「話をしましょう。あなたのことが全部知りたい」。サーカスのスターとなるホッキョクグマのトスカが、女性猛獣使いのウルズラに話し掛けた。これをきっかけに、お互いが生い立ちについて語り合うようになる▼人と動物が共有する「第三地帯」でのことだという。作家多和田葉子さんの小説「雪の練習生」のワンシーンで、思い起こしたのは、あすが動物保護団体の定めた「国際ホッキョクグマの日」だからである▼この日は、地球温暖化で海氷が減ってアザラシを捕食できないと、絶滅の危機に陥る、と訴える。この際、温暖化がほかのクマに及ぼす影響も知っておきたい▼日本国内では、暖冬のために冬眠が遅れて、住宅街に現れるヒグマやツキノワグマが後を絶たない。餌となる木の実の凶作で、冬眠に必要な栄養も足りていないとされる▼人が襲われる事故の多発に伴い、本年度の昨年12月までに捕殺されたクマは、環境省の集計で5千頭を大きく超え、年度途中に過去最多を更新した▼捕殺は人の被害や不安を減らすため、やむを得ず行う。温暖化防止に加えて、放置されてクマを呼んでしまう果樹を切るなど、無用な接触を避ける工夫も要るだろう。トスカとウルズラの間のように、クマと人が意思疎通できる第三地帯があればよいのにと思う。