認知症の父の介護中の出来事や思いをつづった本を出版した浅井さん(滋賀県草津市)

認知症の父の介護中の出来事や思いをつづった本を出版した浅井さん(滋賀県草津市)

 滋賀県草津市の弁護士浅井勇希さん(40)がこのほど、認知症を患った父親の容体の変化や、介護する家族の苦労を記した本「言葉を忘れた父の『ありがとう』」を出版した。発症してから亡くなるまでの8年間、さまざまな問題行動を起こしながらも他者への感謝の心を失わなかった父の姿と家族の思いをしたためた。

 海運業者に勤め、「生真面目な性格だった」という勇希さんの父政昭さんは、68歳だった2010年に前頭側頭型認知症と診断された。妻直子さん(77)が名古屋市の自宅で介護していたが、症状が悪化して13年に精神科に入院。18年12月に76歳で他界した。
 勇希さんの職場に何度も無言電話をかけてきて異変に気付いたことや、スーパーで団子を万引したり、奇声を上げ、人をたたくなどの暴力が目立ったため入院させると決断したことなどを赤裸々に記した。「私がいると途端にわがままで腹が立つ」「我慢の限界」など、介護者の苦悩をしたためた直子さんの日記の文章も引用した。
 一方で、診断から1年半ほど過ぎ、既に他者の識別ができなくなっていた政昭さんが、実家に泊まった勇希さんを見て、「ありがとう」と言ったエピソードを紹介。「認知症が進んでも長い人生で保持した記憶や知能は残るとされる。父は『ありがとう』を実践して生きてきたのだろう」とつづる。
 15年に原稿を書き始め、一時中断していたが、昨年完成した。勇希さんは「認知症患者の家族に共感してもらえたり、何かのヒントになれば」と話す。ハルノソラ刊。A5判124ページ。税別1300円。