アルベール・カミュの代表作「ペスト」にこんなくだりがある。「数字は上昇していますよ、先生」「今までのところ、われわれも足踏みしていた」▼死者の増加を示され、医師リウがペストに立ち向かう決心をする場面。しかし当局の反応は鈍く、犠牲が増え続けて、ようやく街の閉鎖が宣告される。閉ざされた空間で不条理に直面する登場人物たち-中国・武漢を思い浮かべて読み返すとリアルだ▼「これから1~2週間が急速な拡大か終息かの瀬戸際」。こちらは新型肺炎対策で感染症の専門家会議が発したメッセージだ。カミュが描くような事態にはしない、という決意も伝わってくる▼瀬戸際で何をすべきか。病院は重症者を優先、軽症の人は自宅療養で、という政府方針が気になる。ウイルス検査や入院受け入れに限界があるらしい。心配で病院に行っても薬があるわけでなく、受診を待って感染するのがオチかもしれない▼自宅という閉鎖空間で不条理な不安にかられそうだ。いや、カミュの時代と違うのはインターネットで外から情報を得られること。その際に必要なのはヘルスリテラシー。信頼できる専門家や機関、科学的根拠などをチェックしたい▼イベントなどの自粛が相次いでいる。今は感染を広げないのが大切、と思うようにしている。