被爆者救済の可能性を狭めることにつながらないだろうか。

 原爆の放射線で病気になり、手術などの治療を受けずに経過観察中の被爆者を原爆症に認定するかどうかについて、最高裁は「積極的な治療行為の一環と評価できる特別な事情が必要」とする初めての判断を下した。

 原爆症の認定要件には、病気が放射線の影響を受けたという「放射線起因性」と、現に医療を必要とする状態「要医療性」の二つがある。今回の判断は、従来あいまいだった要医療性の解釈に統一的な指針を示した形だ。

 経過観察中との理由で申請却下されていた被爆者が、病状によっては救済されるなど認定の幅が広がったとする評価もある。だが最高裁は、原爆症と認定しなかった国の処分取り消しを求めた原告3人の経過観察は「特別な事情」に該当しないとして請求を退けた。

 特別な事情は、病気の悪化や再発可能性、医師の指示内容などを総合考慮して判断すべきという。

 行政の裁量を幅広く認めたようにみえる。経過観察中の被爆者については要医療性を厳格に判断していいとの裏付けを与えたことにならないか。切り捨てられる被爆者が増加しないか気がかりだ。

 被爆者側の弁護団によると、原爆症に認定されても、3年ごとの更新の際に「治療の必要がなくなった」として医療特別手当を減額される事例が増えているという。

 手当に国費を充てる以上は条件設定が必要-というのが厚生労働省の論理のようだ。しかし、要件の厳格化は被爆者の選別にもつながる。「全員救済」を目指す被爆者側との隔たりは埋められまい。

 原爆症の認定を巡っては、2003年に日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が主導して集団訴訟を起こし、国敗訴が相次いだ。

 こうした状況を受け、09年に当時の麻生太郎首相と被団協代表が「被爆者と国が今後訴訟で争うことのないよう解決を図る」ことで合意、訴訟終結が図られた。

 だが、解決の場となるはずの両者の定期協議は年1回程度の開催にとどまる。国は認定基準を緩和したが、その後も申請却下が相次ぎ、法廷での闘争は続いている。

 被爆者援護法は、後遺症に苦しむ被爆者に「国の責任で総合的な対策を講じる」としている。

 被爆者の高齢化が進む中、司法判断に基づく行政の「正しさ」を貫いても問題解決にはつながるまい。全面救済へ、改めて被爆者と真摯(しんし)に向き合う時だ。