無添加の具材を使ったパンや、アレルギー対応の食パンなどが並ぶ店内(大津市逢坂2丁目・ドライリバー)

無添加の具材を使ったパンや、アレルギー対応の食パンなどが並ぶ店内(大津市逢坂2丁目・ドライリバー)

 「日本一パン好きなまちは?」。こう聞かれて思い浮かべるのはどこだろうか。多くの店があり、「パンのまち」と言われる京都市?おしゃれで洋風イメージのある神戸市?国の最新の調査によると、最もたくさんのパンが食べられているのは、なんと大津市。意外な結果に当の市民も「なぜ?」と戸惑う。実態を探ってみた。

 全国の県庁所在地と政令市計52市の2人以上の世帯(約8千世帯)を対象とした総務省の家計調査によると、2017~19年のパンの年間消費量は、大津が年平均56・313キロで1位だった。僅差で大阪、岡山が続き、10~15年の6年間で3度にわたり1位だった京都は6位。年間購入額では大津は3万6567円で、神戸、大阪に続いた。
 理由をあちこちで尋ねてみた。三井寺近くのパン店「月麦の音」のオーナーこだまたかこさん(66)は「大津の水や空気、温度差が発酵食品向きで、おいしいパンが作れるからでは」と推測。1923(大正12)年創業の「西洋軒」(坂本4丁目)社長の山岡忠樹さん(34)は「戦後は進駐軍の拠点施設があり、市民がパンに親しむ土壌ができた」。物産振興などを担うびわこビジターズビューローは「パソコンやスマホの普及率も全国上位。目新しい物好きの一面が、高級食パンなどのブームに乗っているのでは」と分析。若い世帯の転入増が一因とみる市民も多い。
 市内の「菓子・パン小売業」は141軒で、千軒以上もある京都市に「わざわざ買いに行く」という主婦らも少なくない。十数店のパン店が並ぶ今出川通に出掛けたり、百貨店で買い求めるという声も。高級生食パンを扱う有名店も放っておかず、「乃が美はなれ」(大阪市)が18年10月、JR大津京駅前に出店。同店オーナーの佐藤正徳さん(45)は「毎日完売し、人口の割に需要は高い」と話す。「銀座に志かわ」(東京)も大津進出を計画中だ。
 県外勢力に押されがちに見えるが、大津市民は「個性的なまちのパン屋さんが増えている」と胸を張る。
 「体にいいものを食べてほしい」。元フレンチシェフの吉田國弘さん(55)が店主の「Bonne riziere」(下阪本6丁目)は、古代小麦などを石臼でひき、具材のチーズやアンチョビ、天然酵母まで自家製だ。パンは石窯で焼き上げ、京阪神や名古屋からもファンが来店する。
 大津赤十字病院近くの「ドライリバー」(逢坂2丁目)は、県産の野菜のほか、無添加の具材やシロップなどを使う。アレルギー対応の天然酵母生地の食パンも並ぶ。「安全安心で、どこか印象に残るパン作りを大切にしている」と語る店長の干川弦さん(41)は「大津を含め、良い水や小麦、野菜が取れる滋賀は地産地消の条件もそろい、ポテンシャルは高い。素材を生かしたパン屋がある地域と認知されていくと思う」。
 まちはどう動くか。「目立たない大津が、京都より上位になるとは」と控え目な大津市は、観光資源に生かせないか、来訪者にパンを食べたかなどの調査を開始。イベント開催や商品開発などを視野に「パン屋さんなどと協力していけたら」(観光振興課)とする。
 パンをてこにした町おこし例はあり、岡山県内でパン製造出荷額が最も多い総社市は「パンのまち」とPR。ご当地パンや、歌手の嘉門達夫さん作詞作曲のご当地パンソングも作った。市商工会議所の担当者は「大津がパンのまちとPRするなら、競い合って盛り上げたい」と待ち受ける。

 実は、大津市民の消費量が多い食べ物はパンだけではない。家計調査によると、ウナギのかば焼きの19年の購入額は、浜松市を抜いて1位になった。17~19年の平均年間購入額では魚介のつくだ煮、キャンディーもトップ。またまた「なぜ大津が?」と首をかしげる結果だが、県都の人々のグルメな一面が垣間見えたような気がした。