「火星人が攻めてきた」。1938年、ハロウィーンの夜、米国のラジオ局が放送したH・G・ウェルズのSF小説「宇宙戦争」を基にした劇に、全米がパニックに陥った▼ラジオ局は放送中に架空の番組であることを4度も告知していたのに、多くの人が家を飛び出し、泣きながら神に祈った。その中で正しく判断した人もいて、社会心理学者ハドリー・キャントリルが綿密に調査した▼基本的に懐疑的で慌てて判断を下さない、情報を自力で確認する…。そんな「批判力」が重要になると強調した。パニックの背景にあったのは10年前から続く不況、新たな世界戦争の予兆といった社会不安だったとも指摘する▼不安定で混乱した状況に付け入るのが偽情報だ。東日本大震災で「関東の電気が底をつくらしく、関西電力から送電を行う」といったチェーンメールが出回ったことは記憶に新しい▼新型コロナウイルス感染が広がる中、「地元で感染者が出た」というデマや「お湯を飲めば予防できる」など本物っぽい偽情報がネットや会員制交流サイト(SNS)にあふれている。冷静に考えればありえないことは多い▼見えない敵は、火星人並みに手ごわそうだ。80年前に得た教訓、批判力で冷静に対処するようにしたい。パニック状態をつくってはなるまい。