詐欺被害が相次いだ祇園地域(京都市東山区)

詐欺被害が相次いだ祇園地域(京都市東山区)

 「もう、誰も信じられない」。今春、京都市内で詐欺被害に遭った男性(50)を取材する機会があった。男性は財産をだまし取られただけでなく、人間不信に陥っていた。近年は家族や警察官を装って現金を詐取する特殊詐欺が続発するなど、誰もが詐欺の標的になり得る状況が続いている。どうすれば被害を防げるのか。「自分は大丈夫」と過信することなく、身近に起きた犯罪事例を通じ、自分を守るための方策を学びたい。

 1月上旬、男性が勤務する東山区の飲食店。来店した男(72)は、黒いコートに大きなリュックサックを背負っていた。当時は開店準備中で、店内には男性一人しかいなかった。男は競馬の武豊騎手の親類を名乗り、「日本中央競馬会 調教師」と書かれた名刺を差し出してきた。「店長はいないのか。久しぶりに会いたかった」「今度は豊も一緒に連れてくる」

 しばらくすると、男はレースの日時と馬名を示した上で「自分にはコネがあり、勝ち馬が分かる。勝負いけや」と持ちかけてきた。男性は、男に勧められるがまま、財布にあった2万円を手渡した。

 男性が詐欺被害に気付いたのは、男が店を出た後だった。インターネットで検索すると、男が示した日時にレースの開催予定はなく、教わった馬もすでに競走馬登録が抹消されていた。

 男性が被害届を提出した2カ月後、男は詐欺容疑で東山署に逮捕された。男は祇園、木屋町地域の飲食店に現れ、従業員ら10人ほどから同様に現金を詐取していたという。狙われたのはいずれも競馬に詳しくない人たちで、関東地方などでも被害が確認されている。

 事件が報道されると、ネット上には「だまされる方が悪い」「うそだとすぐに分かるはず」と被害者をおとしめる書き込みが相次いだ。ただ、このように事件をひとごとととらえたり、自分や家族が被害に遭うはずはないとの思い込みこそ、被害予防の障壁になっていないか。おれおれ詐欺など高齢者を標的にした卑劣な特殊詐欺は後を絶たず、昨年1年間の被害額は全国で356億8千万円に上った。その手口は巧妙さを増しており、「自分が被害に遭ってもおかしくない」との認識をあらためて強く持ちたい。

 男性への取材を通して痛感したのは、詐欺が被害者の財産を奪うだけでなく、被害額の多寡にかかわらず、心に深い傷を残すということ。だまされたことに気付き、どれだけ憤っていても、自責の念から泣き寝入りしたり、家族にすら打ち明けられない人も少なくないはずだ。

 男性は、取材を受けた理由について、詐欺被害者を少しでも減らすためだと語った。「『こちらにも落ち度があったのか』と悩み、苦しんだ。同じ思いをする人がこれ以上、増えないでほしい」