青い空、緑の芝生、黒い土。そして大歓声がよく似合う甲子園球場。かつて石川・星稜高を率い名勝負を繰り広げた山下智茂さん(75)は「父と母がいる場所」だと言う▼1点差でも敗退が決まる勝負には父親の厳しさを感じる。ベンチから引き揚げる途中で聞こえる「また戻って来いよ」という観客席の声には「母親の優しさがある。ここに生徒をまた連れてきたいと思った」▼山下さんが情熱を注いだ高校野球も新型コロナの影響を受け、センバツ大会は中止となった。プロ野球のオープン戦や大相撲は無観客で開催されたが、いつもの歓声が消えてしまった映像は何とも物足りない▼選手の反応はさまざまだ。「今場所はお客さんの力を借りられず、土俵の上で自分との闘いになる」と話す力士もいた。静寂の中で戦って初めて、その存在の大きさに気づいた選手も多いのではないか▼観客は期待を込めて空気を演出し、選手は見られることで集中力を高める。無言の信頼関係が各競技の現場を盛り上げてきた。歴史に残る名勝負も大逆転劇も、ファンの声援なくして成立しなかっただろう▼プロ野球の開幕が順延し、Jリーグは今も中断したままだ。選手もファンもしばらくは我慢の毎日が続く。スポーツへの思いを共有しつつ日常が戻ることを待ちたい。