一歩前進とはいえ、これでは勇気を出して不正を告発した人を守り切れるとは言い難い。

 政府が公益通報者保護法改正案を今国会に提出した。制定当初から評価がいまひとつだった制度がようやく見直されるものの、またも報復を防ぐ罰則導入は見送られ、内部通報によって不利益を受ける不安は拭えない。

 同保護法は、勤め先の企業や官庁の不正を通報した人が解雇や降格の報復を受けないようにするのが目的だ。

 雪印食品の牛肉偽装事件や東京電力の原発トラブル隠しが内部告発で発覚したのをきっかけに制定、2006年4月に施行された。国民の生命や財産を損なう不正を暴き、被害拡大を防ぐ重要な制度とも言えよう。

 ところが、制度に欠陥が多いと指摘されてきた。とりわけ報復した勤め先への罰則がなく、通報者保護の不備に対する批判は根強い。

 勤め先が不正の調査を放置し逆に告発者を処分したり、閑職に追いやったりする事例が後を絶たない。京都市でも公益通報で児童相談所の対応の不備をただそうとした市職員が停職処分を受け、京都地裁が昨年8月、処分取り消しを命じている。

 制度見直しは経済界などの警戒感が強く、この十数年間、手つかずのままだったが、初の法改正へ踏み出した。

 評価できる点は幾つかある。

 現行法は通報者保護の対象を労働者に限るが、取締役や執行役などの役員と、退職後1年以内のOBにまで拡大する。内部事情により詳しい役員らの不正告発も期待できる。

 一定規模の企業や行政機関には内部通報体制の整備を義務付ける。通報者を特定できる情報の漏えいを防ぐため、通報窓口の担当者らに罰則付きの守秘義務を課すのも効果的だ。

 勤務先以外への通報には厳しい制限を設けてきたが、要件を一部緩和し、監督官庁への告発は氏名と内容などを記した書面を提出すれば可能となる。ただ報道機関などへの情報提供についてはなおハードルが高い。

 一方、報復への制裁が盛り込まれなかったのは残念と言うほかない。報復を受けないとの確証がなければ、内部通報をためらわざるを得ない。

 法改正に向けて内閣府消費者委員会の専門調査会が18年12月にまとめた報告書は、報復した企業側への刑事罰導入は見送ったものの「是正勧告し、従わない場合は企業名を公表する」と強い姿勢を示した。だが企業側に配慮した自民党の意向を踏まえ、制度改革の肝が骨抜きにされてしまったと言えよう。

 法令順守が重視される中、いまだに品質データ改ざんや不正会計、ハラスメントといった不祥事が相次ぐ。組織ぐるみの不正隠蔽(いんぺい)は国民の不信を招き、厳しい目が向けられる。組織内の不正を安心して告発できる制度は、自浄作用を保ち、健全な企業風土を培うことにつながり、企業側にとっても利点は大きい。

 国会審議では、過酷な報復により勇気ある告発が踏みにじられる実態を直視し、公益通報者をしっかり保護できる実効性ある制度に改めてもらいたい。