文化財建造物には多くの歴史的情報や伝統技術があふれており、それらを見て知ることができる絶好の機会が保存修理を行うときです。そのためには、文化財建造物の歴史的価値や構造、伝統技法等の知識を持って、しっかり調査ができる技術者が必要になります。国宝や重要文化財建造物の修理を国の補助金を受けて行う場合には、文化庁が認定する「主任技術者」という資格を持った技術者がその事業に携わらなければならないと規定されています。文化財建造物が数多く所在する京都府では現在、11名の主任技術者をはじめ19名の文化財建造物担当の技術職員が教育委員会に配属されて保存修理事業等に従事しています。

伝統技法の保存と継承の取り組み。茅葺きの技法を継承するために実施された研修=(公社)全国社寺等屋根工事保存会茅葺シンポより

 修理技術者は、文化財建造物の修理現場を経験しながらさまざまな研修も受けて知識や技能を習得し、約10年の実務経験を積むとともに、文化庁が主催する講習会を受講してようやく重要文化財建造物の「主任技術者」として認められます。国宝や五重塔などの特殊で高度な技術が必要な建造物に従事するためには、さらに多くの実務経験を要します。

 文化財建造物の修理が始まると、修理技術者が中心となり多岐にわたる調査が実施されますが、近年そこに最新の科学的な技術も数多く導入されはじめています。

 まずは、建造物の建立年代を推定する技術です。現在は木材の年輪の幅を調べることによって木材の伐採年を推定する年輪年代調査法と、木材に含まれる炭素を調べることによって木材の生育年代を推定する放射性炭素年代調査法の2種類が採用されています。棟札や瓦銘のようなはっきりした建築年代のわかる資料がない建造物に対して、これまで行われてきたデザインや構造的な特徴等による年代判定を補完する形で、このような科学的な調査も行われるようになりました。

放射性炭素年代調査 木材の外周付近、中央、中心付近の3カ所から試料を採取し、炭素量を測定して基準グラフ(下図)と照合し年代を推定する方法。この柱は西暦1189年伐採との推定結果が出た(「東寺西院平唐門調査報告」中尾七重・門叶冬樹/山形大学、坂本稔/国立歴史民俗博物館より)
基準グラフ

 次に、建造物を艶やかに彩る彩色塗装の調査では、光学機器の小型化や高性能化によって、これまで建物から試料を採取して研究室で調べなければ判明しなかった顔料微粒子の成分が現地で簡単に確認できるようになりました。これに伴い高精度による調査箇所を増加することが可能となり、これまで絵師や学識経験者の知識や経験による推定で実施されることもあった彩色復元の確実性が格段に向上しました。

 また、非破壊で木材の腐朽や塗装された塗膜の下の様子を調べるための機器も充実してきています。昔、漆塗りの扉の下地をどうしても調べたくて、夜間にレントゲン撮影ができる施設へその扉を持ち込んで撮影してもらったこともあり、現在の調査技術の発展には感慨深いものがあります。

 近年積極的に取り組んでいる耐震対策調査における建築構造解析技術も最新技術のひとつです。この技術の発展により、過去の実際の地震動や将来想定される地震動等を立体画像に入力すると、100分の1秒ごとの建物の変形具合が視覚的に確認できます。しかし、この解析結果はわれわれのような伝統技術を扱う立場の者から見るとまだ納得はできません。それは伝統工法による木材の架構や壁、建具等の構造性能がいまだ解明できていないためで、今後は実物大での実験等によるデータ蓄積をさらに充実させて、歴史的建造物の真の耐震性が把握され、その上で実態に即した耐震対策が行われるようになることを期待しています。

 その他、ドローンやVRコンテンツを利用した計測技術などの導入も図られつつあります。

 このように文化財建造物の修理と先端技術のコラボレーションが進む一方で、修理をするために欠かせない伝統技術については難題が山積しています。大工が行う木工事をはじめ、瓦などの屋根工事、漆喰(しっくい)や土壁などの左官工事、そして畳工事等は、一昔前までは一般の住宅を造るときに用いられてきた技術で、職人さんたちが日々腕を競って技術の向上が図られてきました。しかし、現代の建築でそれらの技術がほとんど用いられなくなった今、材料や職人を確保することが非常に困難な状況になってきています。伝統技術の継承については、それぞれの職種ごとに技術保存会が結成され、全国レベルで技能者の育成や普及啓発が図られてきていますので、このことについてはまた別の機会に紹介できればと思います。

 3年にわたって連載してきました「文化財保存の現場から」も今回で最終回となりました。この連載では、主に京都府内で文化財保存事業として実施されてきた建造物保存修理と遺跡の発掘調査において、直接現場で担当したり調査に関わったりした京都府の技術職員が、現場作業を通じて得られた文化財の調査成果を、「見どころポイント」も織り交ぜながらできるだけわかりやすく、また熱い思いを込めて紹介してきました。このたびの連載により多くの方が文化財に親しみや興味をお持ちいただけたならありがたいと思います。これからもぜひいろいろな文化財に足を運んでみてください。(京都府教育委員会文化財保護課建造物担当 鶴岡典慶)=おわり