ダイイング・メッセージとは推理小説などで、殺された被害者が死の間際に誰が犯人か示そうと残す手がかりのことだ。たいていは不完全な形となって謎を呼ぶことになる▼かつての人気ドラマ「古畑任三郎」シリーズの1作目がこの話だった。「何も書かれていないダイイング・メッセージ」というひねった内容を覚えている方もいるだろう▼こちらは現実の話であり、殺人事件でもない。だが「殺されたのと同じ」との印象を持つ人もいるのではないか。森友文書改ざん問題で自殺した近畿財務局職員の手記を妻が公表した▼「決裁文書の差し替えは事実です」「パワハラで有名な佐川局長の指示には誰も背けない」などと実名を挙げてはっきり書いている。追い込まれていく様子が痛々しい▼「すまじきものは宮仕え」―人に仕えるのは気苦労が多く、やらないほうがいいという意味の言葉だが、あえて「すさまじきものは宮仕え」と言う人もいるようだ。忖度(そんたく)の闇はなお深い。「本当のことを話してください」と、妻は国と佐川宣寿元理財局長を提訴した▼政府は再調査しなくていいとするが、それでは手記に何も書かれてないと言っているのと同じではないか。「真犯人」に迫るための手がかりを、民主国家のダイイング・メッセージにしてはならない。