町の中にぽつんとある「そば うどん」の看板と古ぼけた店構え。お蕎麦(そば)屋さんというより、食堂といったほうが似合いそうなお店はどんな町にもある。

 京都に住んでいた時のぼくの小さな小さな夢のひとつはいつか京都中の小さな食堂の全部に足を運ぶことだった。そんなの無理だってわかっていたけど。よく知っているはずの町でも、自転車で一本違う通りを走るだけで簡単に知らなかったお店に出会うことができる。そんな町が好きだ。

 このお店「市乃家」に初めて入った日は夕立がひどく激しい日で、まだ晩ごはんにはちょっと早い時間だったけど、半分雨宿りのつもりで入ることにした。

 雨ひどいねぇと優しく話しながらお茶を出してくれた女将(おかみ)さんと少しだけ天気のことを話してちょっと悩んだフリをしたあと、かけそばを注文する。あっという間に出汁(だし)の湯気に包まれた丼がやってくる。あっという間に食べ終わり、外はまだ夕立が続いている。

 女将さんのもう少ししたら晴れるやろうからゆっくりしていき、という言葉に甘えさせてもらいながら、だし巻きたまごを追加で頼む。ぼくは町が好きで町の食堂が好きで、こんなふうな夕方がとても好きだ。