世界中で4千万人以上が亡くなったという「スペイン風邪」は、スペインが感染源ではないのに、そんな名前が付いてしまった。ずいぶん迷惑な話だ▼そもそもは第1次大戦のさなか、米国の兵士が自国で流行中のインフルエンザを欧州戦線に持ち込んだと考えられている。英仏独の兵士がバタバタと倒れたが、敵に知られないよう情報統制された。一方、中立国で報道されたのがスペインで、流行の中心と見られたというのだ(岡田晴恵著「人類vs感染症」)▼いま世界が手を焼いている新型コロナウイルスを、トランプ米大統領が「中国ウイルス」と呼び、中国の猛反発を買っている。発生当初の隠蔽(いんぺい)を批判すれば、汚名を着せている、とののしり合う▼そんなことやってる時かとあきれる。それにコロナ禍で広がるアジア系の人たちへの差別を助長しかねない。世界保健機関(WHO)が5年前、新たな感染症に地域の名前を付けないことにしたのは、差別を引き起こさないためだ▼見かねた国連の特別報告者が「中国ウイルス」呼称を使わないよう声明を出した。トランプ氏は口を慎み、中国はもっと情報を開示すべきだ▼多くの指導者が「戦争」宣言しているが、共通の敵はコロナ禍だ。100年ほど前の大戦と違い、情報の共有が重要な戦略になる。