認知症の人への声掛けに協力を呼び掛ける松本恵生さん(右から2人目)=2月18日、京都市左京区・エーコープ京都中央岩倉店

認知症の人への声掛けに協力を呼び掛ける松本恵生さん(右から2人目)=2月18日、京都市左京区・エーコープ京都中央岩倉店

 「いつもは自力で帰宅できますが、外が暗かったら帰れなくなるかもしれません。でも警察に確保をお願いするのではなく、私たちに連絡をください。迎えに行って、一緒に帰ります」
 2月中旬、京都市左京区のスーパー。近所に住む認知症の80代女性は何度も夜に外出して行方不明になっていた。市岩倉地域包括支援センター長の松本恵生さん(50)は、女性の写真や症状、行動記録をまとめた資料を見せながら、店員に女性への声掛けと連絡への協力を求めた。
 松本さんは家族や施設から話を聞き、認知症の人が行方不明になった道のりや日常の行き先となりそうな店やバス事業所などを訪問している。顔を知り、声掛けがしやすくなるよう、本人と一緒に訪ねることもある。
 認知症の人が外出先で迷ったり、トラブルを起こしたりした場合、警察に保護されることがある。繰り返されると、家族は警察に迷惑を掛けたくないと思い、部屋の外側から鍵を掛けてしまうこともある。しかし、松本さんは「声を掛けて見守ることのできる地域なら、外出をあきらめないでいい」と強調する。周りからの一声があれば、不安でパニックになった本人が気持ちを落ち着け、迎えに来た家族と一緒に安全に帰ることができるからだ。
 松本さんは、以前は命を守ろうとするあまり、「徘徊(はいかい)を止める」ことばかりにやっきになっていた。2012年にはバスや鉄道に乗車中、迷った人を職員が保護する実践的な訓練も始めた。
 ところが、ある全国フォーラムで、同じ登壇者だった若年性認知症の男性に言われた。「外出ができないと生きる力がしぼんでしまう」。男性はタブレットのアラームを使って出先で目的地を見失わない工夫を試みるほど、自らの力で外出することにこだわっていた。外出は、生きる力の証明だった。
 「必要なのは、周囲の判断で一方的にやめさせる『監視』ではなく、外出したい思いにできる限り応える『見守り』」と松本さん。
 主役は周囲ではなく、本人だった。
 その後の訓練は、交通機関の職員だけでなく、地域住民にも参加を呼び掛けた。本人の住所や症状が記されたヘルプカードや家族からのメモを手掛かりに、市バスの車内で声掛けをし、行き先や待ち合わせ場所を聞く体験形式にした。
 認知症が原因とみられる全国の行方不明者は年間1万7千人(18年)。警察庁が統計を始めた12年の2倍近くまで急増し、多くの自治体や家庭で衛星利用測位システム(GPS)を利用した追跡が広がっている。ただ、松本さんは、場所を突き止める道具としてでなく、外出するために活用してほしいと考えている。「GPSを持ち、どんどん出掛けてと周りが勧めてほしい」
 18年から叡山電鉄のホームを借りて行政などと一緒に「駅カフェ」を始めた。昨年10月の第2回のカフェは認知症の8人が飲食ブースで販売と接客をした。140人が訪れ、ドーナツが予定の3倍も売れるにぎわいぶりだった。
 松本さんには、認知症の人の生き生きとした姿に触れ、外で活動することがいかに大切かを知ってもらいたいとの願いがあった。
 「迷っているようなら声を掛けようとか、自分にも何かできることはないかという機運が広がってくれたら」