日本認知症本人ワーキンググループの「認知症とともに生きる希望宣言」は、認知症になった人たちがつながり、生き生きと暮らしていく姿勢を取り戻そう、と呼び掛けている。代表理事の藤田和子さん(58)が地元の鳥取市で隔月開催している「本人ミーティング」を2月下旬に訪ねた。

本人ミーティングに先立ち、カフェで食事する参加者ら。話が弾み、笑顔が広がった(鳥取市)


 認知症の人たち9人が輪になって座る。鳥取市役所の1室で開かれた本人ミーティング。松本豊子さん(68)が「私の人生は終わったわ、と思ったこともあったが、この場で話すことで元気をもらえている」と話し始めた。
 「認知症になったからこそ進むべき道が、見えてきた」。2011年に認知症の診断を受け、自宅に5年間、閉じこもった。認知症の人たちと接するようになり、自分の中での受け止めが少しずつ変わってきた。病院の看護師長まで務め、心身にさまざまな痛みを抱える人たちに寄り添った経験は、つらさと喜びを共有することに生かせる。最近ようやくそう思えるようになった。
 思いを受け止めて共感してくれる人がこの場にいるから、率直に話せる。松本さんは一緒に悩み、支えてくれた長女(37)への感謝を話していたとき、こらえきれずに涙ぐんだ。隣の藤田さんが「そうよね」と相づちを打つ。ほかの人たちも松本さんの次の言葉を静かに待つ。

家族への感謝の気持ちを語るうち、涙を流し始めた松本豊子さん


 本人ミーティングの場は、笑顔があふれていた。認知症の診断後も職場の理解を得て仕事を続け、今月末に定年退職を迎える男性は「自分の世界は縮まっていない、むしろ新しい出会いの機会を与えられて広がった。決して不幸じゃない」。別の参加者は「(部屋にこもって)テレビに突っ込みを入れている毎日じゃあ、しょうがないからね」とおどけ、皆を笑わせた。

公民館で開く地域住民向けサロンの会場で、友人の澤野しのぶさん(右)と藤田和子さん


 認知症と告げられても、認知症の人同士でつながり、前向きさを取り戻してほしい。藤田さんは友人の澤野しのぶさん(61)と一緒に、認知症になっても暮らしやすい地域をテーマにした住民向けサロンを3年前から開いている。認知症の診断を受けた人や疑いのある人からの相談に認知症の人が応じる「おれんじドア」も昨年から市内で始まった。裾野が広がってきた。

認知症の診断を受けた人からの相談を、認知症の人が受ける「おれんじドア」を開催している部屋


 本人ミーティングで藤田さんが「私たちの力を出そう。やってみませんか」と切り出した。市が発行予定の認知症の冊子。どんな情報を盛り込むか1年かけて話し合おうと提案した。「この冊子に出合えて、ちょっと元気になった、と思ってもらえるものをね。みんなの写真を載せるのもいいかも」。全員がうなずき、拍手で賛成した。