見えない敵に負けた―。中止されたセンバツに出場予定だった、ある監督の言葉が浮かぶ。努力を重ねた末の春を、思い出深い3月を新型コロナウイルスに奪われた人は多いだろう▼「無観客」の光景にも慣れた。野球や大相撲、オペラ…。それでも静寂の中、普段の声援の大きさを改めて感じた、と姿のないファンに思いを寄せる選手がいた▼中止や規模縮小を余儀なくされた卒業式でも、参加できない人たちの心が届いた。大学の教職員が「バーチャル卒業式」の動画を作ったり、小学校では合唱や合奏の映像を残したり。サプライズの優しさに見送られた▼見えないものを見た、そんな童謡詩人がいる。今月、没後90年を迎えた金子みすゞである。<見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ>。「星とたんぽぽ」では昼間の星も、地中に張るタンポポの根も目には見えないが、そのありように気づき、慈しむ▼「空と海」もそうだ。<春の空>と<春の海>は、それぞれの中に隠された星や真珠の力で淡く光る、という。みすゞの視線は光と影、表と裏を行き交い、つながりの意味を教えてくれる▼感染の拡大で、会いたい人に会えないこともあろう。でも見えない相手の大切さを思い、支え合いを大事にする。いつもと違う春になればいい。