再審の判決で不当捜査を厳しく批判し、刑事司法の改善について説諭をした大西直樹裁判長(中央上)ら裁判体(大津市京町3丁目・大津地裁)=代表撮影

再審の判決で不当捜査を厳しく批判し、刑事司法の改善について説諭をした大西直樹裁判長(中央上)ら裁判体(大津市京町3丁目・大津地裁)=代表撮影

 滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年、男性患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして殺人罪で懲役12年が確定し、服役した元看護助手西山美香さん(40)の裁判をやり直す再審の判決公判で、大津地裁の大西直樹裁判長は、判決文を読み上げた後で、西山さんをまっすぐ見つめながら、「今回の裁判は、刑事司法全体の在り方に大きな問題提起をしている」と自省を含めた説諭をした。要旨を紹介する。

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 西山さんは平成16(2004)年7月、警察官に対して「人工呼吸器の管を外した」と話したことを後悔し、気に病んでいるかもしれません。このことで刑に服することになったが、西山さんのせいにすることは許されません。問われるべきは、うそではなく、捜査手続きの在り方というべきです。

 警察官は、西山さんの自白が信用できるのか、疑問を差し挟むべきでした。迎合的な態度や自身への好意に気がついていたのだから、供述の誘導がないように慎重の上にも慎重を重ねるべきでした。西山さんから自発的な供述を引き出して、慎重に吟味しようとする姿勢がうかがえません。

 また、再審開始決定後、15年後に初めて開示された重要な証拠がありました。取り調べや客観証拠の検討、証拠開示の一つでも適切に行われていれば、このようなことは起こりませんでした。

 15年以上の月日が流れ、刑期を終えて社会復帰した後も、西山さんは殺人事件の被告人として歳月を過ごしてきました。家族もつらく苦しい毎日だったと思います。

 時間を巻き戻すことはできないが、未来を変えることはできます。今回の裁判は、捜査、裁判、刑事司法の在り方に大きな問題提起をすることは間違いありません。

 刑事司法にはまだまだ改善の余地があります。警察、検察官、裁判官も含め、刑事司法に携わる全ての人が人ごととして受け流すのではなく、刑事司法の改善につなげることが大切です。15年以上の歳月を無駄にしてはいけません。よりよい刑事司法を実現する大きな原動力となる可能性があります。

 亡くなった男性の家族は深い悲しみを抱えました。看護助手に殺害されたと聞き、家族が苦しみを背負い続けました。第二の西山さんを作ってはいけないのと同時に、第二の「男性患者」を出してはなりません。

 私自身も、改めて考えさせられました。最終陳述で西山さんが「被告人一人一人の声を聞いていただきたい」と言いました。衝撃を受けたのは、あまりにも当たり前のことだからです。私はこれまで被告人の声に耳を傾けてきたつもりでしたが、改めて、声を聞く重要性を感じました。視界を曇らせることなく、客観的証拠に基づき「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則に忠実である重要性を改めて感じました。

 再審という手続きがあるが、その最終手段に訴えなくてもいいように、適切に起訴され、特に第1審の裁判が適切に行われることが重要で、第1審に関わる私も責任の重さを痛感しています。

 15年、さぞつらく苦しい思いをしたと思います。うそ偽りのない西山さんを受け入れ、支えてくれる多くの方にも出会えたと思います。それらの人々は一生の財産です。もう西山さんにうそは必要ありません。その存在を忘れず、ありのままの自分と向き合い、自分自身を大切にして生きてください。今日がその第一歩になることを願い、信じています。

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 説諭が終わりに近づくと、大西裁判長はかすかに声を詰まらせた。西山さんは裁判長を見つめて聞き入り、閉廷後、裁判所職員から渡されたティッシュペーパーで涙をぬぐった。