吟味重ね 美しく

 日本では古来、書や絵画を掛け軸に仕立てる文化がある。作品を保護するとともに、用いる布や紙の組み合わせで作品を引き立てる効果も生んできた。

 この「表具」に抜きんでた感性を発揮するのが現代美術作家の杉本博司だ。アンディ・ウォーホルのサイン、坂本龍一の楽譜、白髪一雄の抽象画、あるいは鎌倉時代の地蔵菩薩(ぼさつ)図などの作品が、杉本の表具をまとうと額に入れたのとは違う表情を見せる。

楽譜 坂本龍一 2019年 《2020年》
背筋解剖図 解剖学の天使 ジャック・ゴーティエ・ダコティ 1745~48年 《2010年》

 杉本は早くから写真家として世界で活躍する一方、古美術に造詣を深めてきた。表具に使う古裂(ぎれ)や紙類も吟味を重ね、作品にふさわしく、かつ出過ぎないものを選んでいる。

 本展では、杉本の手がけた表具を紹介し、同時に、それぞれの掛け軸に細見美術館の所蔵品を取り合わせた。古墳時代の土器や仏教・密教美術の優品など、杉本自身が選び、組み合わせの妙を演出する。

五月一日経 巻頭 奈良時代 《不詳》
明恵上人像 鎌倉時代 《2007年》
弘法大師行状絵巻 室町時代 《2019年》

 併せて、杉本の写真の代表作「海景」や「劇場」も展示する。一つの作品に長い時間を閉じ込めたようなシリーズは、国際的に高く評価されている。「華厳滝図」は杉本が自らの作品に表具を施した。掛け軸になると、写真に一段と奥行きが感じられる。

華厳滝図 杉本博司 1977年 《2005年》 (C)Hiroshi Sugimoto/Courtesy of Odawara Art Foundation
日本海、隠岐 杉本博司 1987年 Courtesy of Gallery Koyanagi
カボット・ストリート・シネマ、マサチューセッツ 杉本博司 1978年 Courtesy of Gallery Koyanagi

 かつて、掛け軸は家庭で来客をもてなすために飾られた。控えめで美しい杉本の表具は、作品への敬意や来館者への歓迎の意でもあるだろう。世界的な美術作家の、飄々(ひょうひょう)と柔らかな横顔に触れる展覧会だ。会期中、展示替えあり。

写真説明の《 》は作品を軸装にした年です。


【会期】4月4日(土)~6月21日(日)月曜休館(5月4日は開館)※前期は5月17日まで、後期は5月19日から6月21日まで。
【開館時間】午前10時~午後6時(入館は午後5時半まで)
【会場】細見美術館(京都市左京区岡崎最勝寺町)
【主催】細見美術館、京都新聞
【協力】小田原文化財団、ギャラリー小柳
【入館料】一般1400円(1300円)、中高生・大学生1100円(1000円) ※かっこ内は20人以上の団体料金。小学生以下は無料
【関連イベント】杉本博司×ぎをん齋藤「摺箔(すりはく)金銀波濤(とう)図屏風」特別展示 4月4、5日午前11時~午後5時、茶室古香庵(細見美術館3階)
 特別対談at茶室古香庵 杉本博司氏と千宗屋氏(武者小路千家15代家元後嗣) 4月26日午前11時(約60分)、茶室古香庵。1000円。45人。申し込みが必要。
【ギャラリートーク】4月26日午後4時、展示室(入館料が必要)
【問い合わせ】細見美術館075(752)5555


 ※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、休館や開館時間の変更が発生する可能性があります。