滋賀県警が2004年7月24日に作成した西山さんの供述調書のコピー。「眉間のしわ」や「ハグハグ」の描写は、医学的に不合理だと再審判決で認定された

滋賀県警が2004年7月24日に作成した西山さんの供述調書のコピー。「眉間のしわ」や「ハグハグ」の描写は、医学的に不合理だと再審判決で認定された

 殺人罪で起訴された元看護助手西山美香さん(40)は2005年11月29日、大津地裁の被告席で判決を聞いていた。長井秀典裁判長は判決理由で「自白は詳細で具体的。信用性は極めて高く、任意性に疑いはない」と断じた。だが、地裁は有罪立証に突き進む検察のほころびを見逃していた。

 判決の1年4カ月前。04年7月6日に逮捕された当時24歳の西山さんは、大津署で胸をときめかせていた。「白馬の王子様が迎えに来てくれた」。聴取のため、好意を抱いていた男性刑事が自分を留置場から連れ出しに来たからだ。

 取調室では「わざと(男性患者の呼吸器)チューブを外した」という「殺人の自白」を補強する捜査が続いた。チューブ外れを知らせるアラーム音を聞いた人が誰もいないため、県警は「アラーム消音ボタン」に着目した。

 7月24日の調書に、消音ボタンに関する西山さんの供述が記されている。「消音ボタンを押すとアラームは止まる」「(外れて)1分経つとアラームは鳴り出すが、1分経過前にボタンを押せば止められる」「殺すときは、1、2、3、4とアラームが次に鳴るまでの時間を数えた」

 しかし、西山さんは、消音ボタンの存在は知っていたが、1分たつと再度鳴ることは知らなかった。男性刑事に消音ボタンを押したのではと言われ、そのまま迎合していた。数字を数えて1分間を計ったとも言っていない。弁護団によると、軽度知的障害などのある西山さんは60まで頭の中で数えられないという。

 同じく7月24日の供述調書。死亡時の男性患者の様子は「眉間にしわを寄せ、口をハグハグさせた」とある。これも、男性刑事が言ったことを追認した。

 有罪へ向かって捜査が進む一方、自らのうそで勾留された西山さんは精神的に不安定になった。逮捕後、接見した弁護士に言われたように否認すると、男性刑事の上司に「弁護士を信用するな」などと怒られた。