「再審段階での証拠開示を法制化すべき」と話す村井さん(東京都国立市)

「再審段階での証拠開示を法制化すべき」と話す村井さん(東京都国立市)

■「法律がない限り、検察は全証拠を出さない」

 証拠を扱う検事の心理について、検察OBの市川寛弁護士は「仮に有罪方向の証拠が全体の8割を占めていても『弁護士に見せると2割の不利な証拠を、3割、4割と盛られ、裁判官もだまされかねない』と感じる」と証言する。検察は有利な証拠を選別し、有罪立証を進めてきた。

 しかし、2016年5月に度重なる冤罪事件を受けて改正された刑事訴訟法で、起訴後は検察側が証拠の一覧表を示すことが義務づけられ、弁護側が証拠開示請求をすれば、内容が確認できるようになった。

 ただ、現在も再審には証拠開示に関する法律が存在せず、裁判官の裁量に委ねられているのが現状だ。今回、西山さんに有利な証拠が開示されたのも、再審公判に向けた三者協議中に裁判官が検事に対し、「証拠開示には柔軟な対応を」と促したことが影響したとみられる。市川弁護士は「法律で決まらない限り、検察が全ての証拠を出すことはない」と断言する。

 台湾は19年の刑事訴訟法改正で、再審請求段階でも弁護側が全ての証拠開示を受ける権利を明文化した。半世紀以上前から起訴段階で全ての証拠開示が認められており、法改正で再審請求段階まで一貫して弁護人らが証拠にアクセスできるようになった。龍谷大犯罪学研究センターの李怡修招聘研究員は「台湾では当たり前のように証拠が見られ、裁判所が弁護士の記録媒体に証拠をコピーしてくれる」と話す。

 湖東記念病院第1次再審請求の弁護団メンバーで、数々の再審に関わる龍大名誉教授の村井敏邦さんは「証拠開示後進国の日本で、最も優先すべきなのは再審公判での全証拠開示の法制化だ」と訴える。

 再審は、有罪であることが疑わしくなった事件を、改めて虚心坦懐(たんかい)に検証するのが大きな目的だ。村井さんは「端的に言うと無罪を言い渡すための裁判なのだから、本来通常審より証拠を開示することは容易なはずだ」と指摘する。

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 「事件性すら証明されていない」。再審で無罪判決となった湖東病院の患者死亡。ないはずの「殺人事件」を生み出したのは、虚偽の自白を誘導し、強引な有罪立証を進めた警察と検察だった。16年にわたり無実の罪を着せた「正義」とは何か、問う。