井原西鶴の「世間胸算用」や落語の「芝浜」、平成元(1989)年に流行した「一杯のかけそば」…。年越しが舞台の物語はどこか切なく日本人の心をつかむ▼その最たるものが民話の「笠(かさ)地蔵」ではないか。雪国などで伝承され「丹後伊根の昔話」(京都府総合資料館編)にも集録されている。雪の大みそか。売れずに持ち帰った笠を六地蔵にかぶせてあげたじいさんと愚痴一つ言わず温かく迎えたばあさん▼清貧で信心深い老夫婦に六地蔵は望外の福運を授けた。昔話の世界だけでなく、地蔵は各地で大切にされている。京丹後市大宮町では、身の丈約5メートルもある「平地地蔵」が峠を見下ろす▼この季節、住民手作りのわら頭巾とみのが着せられている。一揆の犠牲者の供養に建立されたと伝わり、地域の守り仏として親しまれている▼日本三景・天橋立にも日本海を見つめる地蔵がぽつりと立つ。「波切地蔵」と呼ばれ、この地蔵の所で大波が収まったとされる。赤い毛糸で編んだ頭巾と前掛けですっぽりと覆われていた▼今年は西日本豪雨や大阪府北部地震といった自然災害が各地に爪痕を残した。不自由な生活を続けている被災者がいる。平成最後の大みそか。寒空の下、道端の「お地蔵さん」に手を合わせる人も多いだろう。来る年の平穏を祈って。