「飛鳥美人」をはじめとする壁画が、1972年に奈良県明日香村の高松塚古墳から発見されたときの驚きと興奮を、忘れられない人は多いはずだ。

 約1300年前に描かれた女子群像や四神図などは、極彩色に輝いていた。国宝となるのは当然である。

 2004年になって、壁画が黒カビまみれの無残な姿をさらすとは、誰も想像しなかったのではないか。

 所管する文化庁は、古墳の石室を解体して、カビの除去に着手した。それが、ようやく終了し、壁画が修復されたと先月、発表した。

 美人らを覆う黒い汚れは、ほとんど見られなくなった。けれども、発見当時のぬれたような色鮮やかさは薄れている。

 この際、国宝の魅力を維持できなかった背景と、13年間に及ぶ修復の成果を、あらためて検証しておくべきだろう。

 カビが生じたのは、文化庁の管理体制に不備があったからである。

 発見後、壁画は現地で保存され、自動制御の空調機器などの保存施設が整えられた。

 ところが、カビの発生後、文化庁の検討会は、石室内の温度上昇が原因の一つ、などと報告した。

 保存施設に欠陥があり、機能しなかったのは明らかだ。

 これをチェックする体制の不備や、カビの防止に使った薬剤の影響もあったとされる。

 「良かれと思ってしたことが次々と裏目に出た」と、関係者は振り返る。

 独善的な判断がなかったか、壁画の状態について情報収集とその公開ができていたのかも確かめ、今後に生かしたい。

 修復では、カビを除去するため、色素に影響しない特殊な酵素を開発するなど、現時点では最高レベルの技術を結集したという。

 とはいえ、最善の結果が得られたとは限らない。さらに処置が必要になる可能性も想定される。使った薬剤の影響などを、今後も小まめに点検する必要がある。

 修復された壁画は、再び劣化するのを防ぐため、当分の間、修復施設に置いて、古墳に戻さないことが決まっている。

 新たな保存公開施設を古墳の近くに設ける計画もあるが、具体的な場所や展示方法は、まだ定まっていない。

 明日香村で高松塚に続いて見つかった極彩色のキトラ古墳壁画(国宝)は、同様に劣化したので剝ぎ取られ、施設に保存展示されている。その適否を、しっかりと見極めておきたい。

 修復後の維持管理にきちんと取り組み、国宝を次世代に引き継ぐことが大切だ。

 改正文化財保護法が、昨年4月に施行された。文化財を保存するだけでなく、積極的に活用することを促している。

 文化財が観光資源となり、地域振興に結び付くこともある。しかしそれが、劣化につながるようでは元も子もない。

 東京から京都に移転を予定する文化庁は、今回の壁画修復を機に文化財保護の原点に立ち返り、現場への目配りを強めてもらいたい。