がんばろう会の会員やボランティアとの記念撮影に応じる古屋の住民たち(綾部市睦寄町・古屋集落)

がんばろう会の会員やボランティアとの記念撮影に応じる古屋の住民たち(綾部市睦寄町・古屋集落)

公民館の掃除をするがんばろう会の会員たち。縁側には、女性3人が干したトチの実がたくさん転がっていた

公民館の掃除をするがんばろう会の会員たち。縁側には、女性3人が干したトチの実がたくさん転がっていた

 京都府北部、綾部市の山間地に「古屋(こや)」と呼ばれる限界集落がある。人口はわずか3戸4人。全員が高齢者で、うち3人は90歳前後だ。昨年5月には唯一の男手が倒れ、集落の存続自体が危ぶまれたが、トチの実を使った特産品作りや集落の維持を都市部から訪れる「関係人口」が支える。

 綾部市の市街地から車で40分。山を分け入った谷に古屋はある。1950年代には15戸約70人が住んでいたが、過疎化。現在暮らしているのは渡邉ふじ子さん(93)と次男の和重さん(68)、岩崎キクノさん(95)、細見恵美子さん(89)のみだ。

■村が変わるきっかけは「条例」

 どこにでもある「過疎の村」。そんな古屋が変わるきっかけは、綾部市が2006年に独自に制定した「水源の里条例」だった。人口減少と高齢化が進む山間地の集落に対して、特産品開発、都市部との交流などに市が経費を補助する取り組みだ。
 古屋は最初の「水源の里」5集落の一つとして参加し、特産品として、山のトチの実を使ったおかきとあられを売ることにした。住民たちは最初は「今さら」とあきらめムードだったが、話し合いを重ねるうち、「歴史のある村を廃村にしたくない」と思い直すようになり、いざ始まると、「ばあちゃんたちの表情がどんどん生き生きしていった」(和重さん)。
 トチの実は山で一つずつ拾い、天日干しし、皮をむき、あく抜きをしなければならない。和重さんを除いて当時80歳前後だった女性たちが全作業を担うのは難しい。府の「中山間ふるさと保全事業(ふるさとボランティア)」や市を通じてボランティアを募った。

■古屋には人を引きつける力がある 

 初年の08年は京都市内を中心に約50人が集まった。「おばあちゃんたちにまた会いたい」「古屋の自然に包まれると元気になる」とリピーターが現れるようになり、11年、その中の28人が、古屋を自主的に応援する「古屋でがんばろう会」を結成した。
 がんばろう会は、トチの実拾い、獣害防止ネット張り、道普請、雪かきなどで毎回ボランティアを募り、住民の暮らしを支える。山を楽しむツアーなども催し、週末になると、住民4人の集落に何十人もの来訪者の声が響くようになった。長谷川陽介会長(46)は「古屋という土地には人を引きつける力がある」と話す。
 「ここの掃除と川沿いの草刈り。分かれてやりましょう」。今年2月2日、京都府内だけでなく神戸市内や大阪府内から、がんばろう会の会員や応募したボランティア計25人が古屋に集まった。加工場として使っている公民館から調理器具などを運び出し、掃除していく。そばを流れる川では残りの者が斜面に伸びた雑草を刈っていった。
 「こんなに大勢の人が来てくれるとは」。涙ぐむ和重さんの姿があった。和重さんは15年ほど前に古屋にUターンし、唯一の男手として、特産品の運搬・販売やボランティアの受け入れなど活性化の実務を担ってきた。だが、昨年5月に脳梗塞(こうそく)で倒れ、体が不自由に。現在はつえをつきながらの生活を送る。
 和重さんは倒れて入院した時、「古屋は終わりだ」と絶望した。だが、がんばろう会は「今こそ会の力を発揮する時だ」と活動続行を決め、和重さんを励ました。「たくさんの人が応援してくれている。古屋に戻って、トチの森にもう一度行きたい」。和重さんはその一心でリハビリに励み、戻った。

■「いつまででもおりたい」

 古屋を訪れる人は10数年前までは年40~50人だった。それが今は、がんばろう会を中心に年間延べ2千~3千人に達する。1年前から古屋を訪れている京都産業大の滋野浩毅教授(地域社会学)は、地域と多様な形で関わる外部の人々「関係人口」の役割に注目。「人口減少が進む中、地域が持続するために何が必要か。古屋は示唆に富んでいる」と指摘する。
 女性3人は古屋でずっと生きてきた。台風21号による土砂崩れで生活道が寸断され、集落が孤立した17年10月には、ふもとに避難したが、道路復旧を待たずに1週間後には集落に戻り、トチの天日干しを再開した。ふじ子さんは「生きがいやと思って頑張っとります。古屋はいつまででもおりたいで」と話す。
 古屋では、染色画家が10年ほど前から空き家を工房にしている。京都市内から通いながら創作活動を続け、古屋の人々の営みを描いた大作を昨年完成させた。新型コロナウイルスの影響で現在、集落に人を招くのは難しい状況だが、和重さんは今、残る空き家を活用して新たな人を呼び寄せる夢を抱いている。支え、支えられ、古屋は京都府内最小の集落として今も息づいている。

 関係人口 移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や住民と多様に関わる地域外の人々を指す。過疎化が進む地方において活性化の新たな担い手として近年注目されている。