新型コロナウイルスの感染者急増に対処するため、安倍晋三首相が改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づく「緊急事態宣言」を7日にも発令すると表明した。

 対象地域は、東京を含む首都圏と大阪、兵庫、福岡の7都府県とし、5月6日まで1カ月程度の期間とする方向だ。専門家で構成する諮問委員会の意見を踏まえ、総合的に判断して実施するとしている。

 同法による緊急事態宣言は初めてだ。より強く拡大阻止への姿勢を打ち出せる一方、発令によって国民の権利を制限する可能性がある。極めて異例の措置であり、具体的な運用は慎重に行われるべきだ。

 政府が、宣言発令に踏み出すのは、これまでの外出自粛の呼び掛けだけでは感染の拡大を抑え込むことはできず、爆発的な増加が今後起きうるとの懸念からだ。

 宣言によって一般の市民に危機感を高めてもらい、感染リスクが高いとされる「密閉・密集・密接」の場面を徹底して避けるといった「行動変容」を強く促そうという狙いがうかがえる。

 感染者急増に迫られ

 国内感染者は3月下旬から急増したが、政府は「ぎりぎり踏みとどまっている状況」「宣言は抜いてはいけない伝家の宝刀」などとし、社会的影響を考慮して発令に慎重な態度を続けてきた。

 しかし、東京都の1日当たりの感染確認数は半月で10倍以上に膨らみ、大阪府や他の地方都市でもクラスター(感染者の集団)が相次ぎ発生している。急増カーブに歯止めが掛からず、感染経路を追えない例も増えている。

 首長や専門家からも宣言による対策強化が必要だと迫られ、政府は宣言の要件である「感染が全国的かつ急速にまん延し、国民生活や経済に甚大な影響を及ぼす」段階に入ったと判断した。

 喫緊の重要課題は、手をこまねいてオーバーシュート(爆発的患者急増)に発展し、対応が追いつかなくなって医療態勢が崩壊する事態を避けることだ。相次ぐ感染拡大にいかに歯止めをかけるかの実効性が問われよう。

 ただ、緊急事態宣言の根拠となる新型コロナ特措法は、制度自体に曖昧さと危うさを抱えていることを見過ごしにはできない。

 住民の協力が鍵握る

 宣言は、都道府県を単位とする区域や期間を明示して行われる。対象地域の知事は、これまでの呼び掛けではなく法的根拠を伴って外出自粛の要請や大型店舗の営業制限など、さまざまな対策を取ることが可能になる。

 だが、外出自粛もあくまで要請のままで、学校や映画館などの使用停止も要請・指示にとどまる。従わない場合の罰則がなく、強制力を伴っていない。実効性を伴わせるには住民の理解と自発的な協力を得ることが欠かせない。

 欧米のように強硬な都市封鎖(ロックダウン)はできず、実際にどれだけ住民の行動制限につながるか不透明な部分も多い。何ができ、何ができないのか、どういう効果を目指すのかを明確にし、具体的で丁寧な説明が必要だ。

 発令は首相が行うが、私権制限にも関わる個別の判断が知事に委ねられている点にも課題がある。自治体の対応力は十分だろうか。

 宣言を受けた対応策をまとめた大阪府では、外出自粛要請に加え、学校や介護施設などの使用制限を求める。オーバーシュート時には府庁の通常業務も絞り、対策用の配置や指示系統の確立も目指すという。

 ただ、休校に伴って医療現場の人手不足が深刻になるとも想定する。市民や企業からの批判も背負い込むことにもなる。与えられる権限に見合った行政能力が確保できるか、点検が必要だ。

 政府も自治体への支援策を検討すべきである。知事に役割を丸投げするのでは政府の責任を放棄するに等しい。

 国会チェック不可欠

 初の緊急事態宣言に国民が不安を高め、過剰反応が起きる懸念もある。不便を避けようと対象地域の住民が域外へ向かう可能性もあり、全国知事会は感染を広げる恐れがあるとして政府に対応を求めた。住民に十分な情報を提供し、冷静な行動を呼び掛ける必要がある。

 特措法は憲法が保障する移動の自由や財産権を侵害しかねない問題もはらんでいる。映画館やホテル、スーパーなどの使用制限や、民間の土地建物の強制使用を可能としているのに被った損失を補償する規定がなく、不服申し立ての手段も設けられていない。

 政府は緊急経済対策に無利子融資や現金給付などを盛り込むが、法的な規制で生じた不利益を経済政策で埋め合わせるのは筋が通らない。法に基づく補償制度を早急に検討する必要がある。

 緊急事態宣言の発令に国会の承認を必要とする規定も盛り込まれていない。成立時の付帯決議で国会への「事前報告」を求めただけだった。

 質疑を含む実質的な審議を行えるよう工夫し、宣言の対象や期間の根拠、運用が適切なのか検証をすることが必要だ。