再審判決で無罪となり、地裁前で弁護士や支援者と並び、マイクを手に感謝の思いを語る西山さん(31日、大津市大津市京町3丁目・大津地裁前)

再審判決で無罪となり、地裁前で弁護士や支援者と並び、マイクを手に感謝の思いを語る西山さん(31日、大津市大津市京町3丁目・大津地裁前)

 東近江市の湖東記念病院で2003年、患者を殺害したとして服役した元看護助手西山美香さん(40)の冤罪(えんざい)が晴れて1週間がたつ。裁判をやり直す「再審」では、その課題が浮き彫りになった。刑事司法に対する国民の信頼を回復するには改革がお題目にとどまってはならない。

 大きな問題点は証拠開示の在り方だ。西山さんの再審では公判段階になって無罪を示唆する証拠が出てきた。重大な資料を滋賀県警が適切に処理していれば逮捕も起訴もされなかった可能性が高い。

 検察による不服申し立ても見過ごせない。17年12月の大阪高裁の再審開始決定に対し、大阪高検は最高裁への申し立てで異例の証拠調べを請求したが一蹴された。検察官は公益の代表者として再審を請求できるが、最後まで有罪立証に固執。憲法で保障された迅速な裁判をいたずらに長引かせた罪は深い。

 36年前に滋賀県日野町で起きた強盗殺人事件の再審では、大津地検が「存在しない」と回答した未開示証拠が後に判明し、大津地裁は「本来あってはならない事態」と遺憾の意を表明。地裁は18年7月に開始を決定したが、地検の申し立てで大阪高裁での審理が続く。日野町事件の元受刑者阪原弘さんは再審請求中の11年に病死している。

 捜査機関に有利な証拠開示や不服申し立ては、刑事訴訟法に規定がないことが原因だ。再審に関しては同法施行後約70年間一度も改正されていない。世界の潮流に遅れる中、法改正を求める日弁連は3月に特別部会を立ち上げたが、国の動きは鈍い。19年5月に滋賀を訪れた検察官出身の山下貴司法相(当時)は「無辜(むこ)を罰してはならない一方で、確定判決を尊重しなければならない。再審の在り方は法曹三者の協議を見守る」と述べるにとどめた。

 一方、大津地裁の大西直樹裁判長は再審判決の説諭で「刑事司法に大きな問題提起をする」と踏み込んだ。司法関係者に現行制度の不備を投げかけた点は評価すべきだが、再審の当事者は多くが死のふちに立ち猶予はない。

 大崎事件の原口アヤ子さんは92歳。弁護団によると、度重なる脳梗塞と認知症で発語もままならないが、“再審”や“無罪”の言葉には反応し、40年以上否認を貫く目に光が宿る。3度の開始決定も不服申し立ての壁に阻まれ、再審公判の扉は重く閉ざされたまま。救済から目を背け続ける法とは一体何なのか。司法関係者だけでなく社会全体で受け止め、私たち一人一人が関心を寄せよう。その小さな意識が改革への大きな原動力となるに違いない。

 冤罪は本人や家族に汚名を着せ、時に絆さえ引き裂く。西山さんは20~30代の大半を失った。阪原さんは不条理に命を奪われ、家族は集落を追われた。多くの涙に報いなければ、この国の司法は著しく正義に反する。