今回の研究から推測されるがんの仕組み

今回の研究から推測されるがんの仕組み

 加齢に伴いがんのリスクが高まる仕組みの一端を解明したと、京都大のグループが発表した。がんの原因とされる遺伝子(がん遺伝子)の変化が高齢者の食道の細胞で多く起こっている一方、それだけではがんを引き起こすとは限らないと分かったという。がんの病態像を刷新する成果となる。英科学誌ネイチャーに3日、掲載する。

 厚生労働省の統計によると、がんは2017年の日本人の死因として第1位で、高齢者に多く発症する。がんには、がん遺伝子の変化が関わると分かっているが、詳細は明らかになっていない。

 医学研究科の小川誠司教授や武藤学教授、横山顕礼助教らは23~85歳の男女の正常な食道上皮における遺伝子の変化を調べた。すると、若い世代でもがん遺伝子を含めた多様な遺伝子の変化が起こっていた。一方高齢者では、がん遺伝子が変化した細胞が食道全体の4~8割を占めた。特に飲酒・喫煙歴のある人は、がん遺伝子の変化の数が多かった。

 またがん遺伝子24個について、食道がんと正常組織では変化の傾向には大きな差があることが判明。加齢などに伴うがん遺伝子の変化とがん化の間には、別のメカニズムが介在している可能性を示唆した。

 小川教授は「加齢に伴って、食道はがん遺伝子に変化が生じた細胞で覆われるようになる。しかしがんになる場合は、さらに別の異常が加わるのだろう」と話す。

 がんは私たちの体の中から生じる「異物」だ。生体内では細胞が絶えず分裂しているが、時に遺伝子の複製にエラーが生じる。多くはがんと関係ない遺伝子変化だが、エラーが繰り返される中で複数のがん遺伝子に変化が生じ、がん化すると考えられている。

 今回の研究は、食道における各細胞の遺伝子の変化を、生物の進化と同じように捉えて解析した。その結果、年齢を重ねるにつれて、がん遺伝子に変化が生じた細胞が生き残りやすく、食道組織の大半を占めるようになることを示した。がんという病気が、高齢化と密接に関わっていることを象徴すると言える。

 一方で、がん遺伝子に変化が蓄積した細胞で覆われていても、必ずしもがんを生じる訳ではないことも示唆された。研究グループの京都大医学研究科の小川誠司教授は「遺伝子がたくさん集まって形成する染色体の変化が関係し、がん化を引き起こすのでは」と推測する。

 2018年のノーベル医学生理学賞の対象となったがん免疫療法の進展などで、制圧に向けた期待は高まっている。しかしがんにはまだ分からないことが多い。高齢者だけの問題ではなく、白血病など小児で発症するがんもある。今回の研究成果を踏まえ、さらにがんの病態に関する知見を広げることが必要となる。