さだまさしさんの人気曲に、グレープ時代の「フレディもしくは三教街」がある。新型コロナウイルスのニュースが出始めたころ、この歌を思い出したファンもいたのではないか▼1940年代初頭、今の中国武漢市の漢口が歌の舞台だからだ。列強の租界地ができ、独特のにぎわいをみせた街で、日本人の若い女性がフレディと出会う▼異国でロマンスをはぐくんだ2人の未来を奪ったのは「炎の中を飛び交う戦闘機」―。戦時中、海軍系商社のタイピストとして働いた母親の話を基に、悲しい恋物語を作ったという▼2カ月半ぶりに武漢が封鎖解除され、漢口駅は多くの人でいっぱいになった。大切な人とようやく再会できた人がいる一方で、永遠に奪われてしまった人もたくさんいるに違いない▼詩情豊かに漢口を歌ったさださんだが、春のような暖かさを感じる母の思い出と、実際の戦争のイメージには違いがあると後に語っている。コロナ禍の武漢もどうだったのか。抑え込みをアピールする政府発表では分からない、一人一人の物語があるのだろう▼緊急事態宣言に京都を追加するよう国に求めると、知事と市長が明らかにした。終わりの見えない困難な状況も、いつかはきっと小説や歌になる日が来る。今はとても想像できなくても、そう信じたい。