何もかも自粛、家に閉じこもって息がつまりそうだ。街に出掛け、演劇を見たり、音楽を聴いたりしたいけれど、どこも公演中止になっている。

 文化というと、ぜいたくに思う人もいるかもしれないが、こんな時こそ心をときめかすものに触れたくなる。文化は、生きることと深くつながった営為ではないだろうか。

 しかし、その文化の現場から、悲痛な声が聞こえてくる。

 新型コロナウイルス感染拡大による自粛要請で、ライブハウスやクラブの95%が減収、48%が「3カ月持つか分からない」と訴えている。音楽団体がインターネットで調査した結果だ。

 影響は広範囲に及ぶ。芸能や音楽、劇場、映画、美術などの21団体で構成する文化芸術推進フォーラム(東京)によると、コンサートや演劇などの中止・延期は5600件を超え、チケット払い戻しなどの損失額は先月中旬時点で推計500億円以上になっている。

 特に小さな劇団やミニシアターなどで存続が危ういところがある。見過ごせないのは担い手らの生活だ。アーティストのほか、大道具や照明、衣装など多様なスタッフが関わっている。

 フォーラムによると、舞台芸術関係者は年収300万円以下が5割強もいて、休演で収入が途絶え「家賃が払えない」との声も聞かれるという。京都市内のミニシアターは客が激減し、「営業を止めるとスタッフの生活が守れなくなる」と話す。

 ここは文化庁の出番のはずだ。しかし、ホームページを見ると、チケット払い戻しを請求せず寄付に回すと税控除になる措置のほか、めぼしい支援策がない。担い手らへの支援は、政府全体の経済対策を紹介するだけだ。緊急貸付制度や小口融資の拡大策、雇用を守る事業主向けの雇用調整助成金などだ。

 今回の緊急経済対策で、収入が半減した個人事業主、フリーランスに上限100万円が給付される。しかし、舞台芸術の業界では雇用や報酬に関する契約書を交わさない慣例があり、仕事も不定期が多く、減収の証明が難しいという。給付金を受け取れる人がどれだけいるのか。

 公演自粛が続く中、文化庁の宮田亮平長官が「明けない夜はありません」とアーティストらを励ます声明を出すと、「空疎だ」と反発の声が上がった。具体的な支援策を示さず、精神論にすぎないという批判だ。

 一方、文化の現場では音楽ライブのネット発信など、生き残りへ模索が見られる。びわ湖ホールではワーグナー楽劇「神々の黄昏(たそがれ)」の無観客上演をネット中継し、収録したDVDを発売して、収入確保を図ろうとしている。

 こうした挑戦にも、文化庁は財政面を含めて支援すべきだ。

 海外では政府が前面に出て文化支援策を打ち出している。ドイツは担当大臣が「文化、創造、メディアの状況のかけがえのなさ」を強調し、文化に携わるフリーランスらに6千億円近くの財政支援を表明した。

 日本は文化芸術立国を掲げている。その本気度がコロナ禍の中で見えてくる。