利害対立が激しくなる一方の国際社会で「接着剤役」を長く担ってきた指導者が舞台から降りようとしている。

■メルケル時代終幕へ

 ドイツのメルケル首相。18年間務めた与党の党首を昨年末に辞任した。メルケル氏は首相職を2021年まで続けるとしているが、実際には遠からず退任するとみられている。

 ドイツは世界最大の黒字国で国民経済は極めて順調だ。それでも退かざるをえないのは、大量の難民受け入れ策への反発が強いためだ。05年から続くメルケル時代の終わりの始まりは、世界中であらわになる自国第一主義、分断と対立を象徴している。

 旧東ドイツで育ったメルケル氏は元物理学者で、東西統一を成し遂げたコール首相の内閣で環境・エネルギー・原子力担当大臣を務めた。地球温暖化防止京都会議(COP3)が開かれた1997年には2度、京都を訪れている。

 京都府南部の研究施設を訪ねた時は、学者出身らしく研究者に熱心に質問し、記者の質問には時間を気にせず答えた。COP3は米国の抵抗で決裂寸前だったが、辛うじて京都議定書を採択できたのも、EUを主導し米国を説得したメルケル氏の手腕によるものが大きかった。

 保守とリベラルの間で絶妙なバランスを取り、現実世界の多様な課題に柔軟に対応する。そうしたメルケル氏のようなリーダーはいま、軒並み苦戦を強いられている。対照的な一方の代表格が「アメリカ第一主義」を掲げる米国のトランプ大統領である。

 昨年11月の米中間選挙でトランプ氏の共和党は上院で議席を増やしたが、下院では負け込んだ。今月始まる米議会では、16年の大統領選に対するロシアの介入疑惑などで野党の追及が強まろう。

 20年の大統領選で再選を目指すトランプ氏は今後、これまで以上に米国第一主義を強く押し出すと予想される。

 関税の報復合戦に発展した米中との貿易摩擦は、今年春までの期限付きで話し合いが進められているが収束しそうにない。

 それどころか、中国の通信機器大手の幹部が米政府の求めでカナダで逮捕され、直後には中国でカナダ人が身柄拘束される事態に発展した。

 貿易摩擦と無関係ではあるまい。ハイテク分野でも覇権を目指す中国に対する封じ込めは、米国では与野党を超えて支持され、日本などの同盟国には中国企業排除で同調を求めている。

 だが本来は国際ルールと多国間交渉で解決策を探るべき課題だ。日本も近く、米国との事実上の自由貿易交渉が本格化する。トランプ政権は安全保障面も含め、従来以上の負担や貢献を求めてくるのではないか。

 安倍晋三政権はいずれの局面でも過去の経緯と自由貿易の原則を踏まえた対応を貫く必要がある。

 米国との対立を深める中国は対日関係の改善に本格的に乗り出した。

■共通利益を探る日中

 昨年10月に中国を訪問した安倍氏は習近平国家主席に今年中の訪日を要請し、習氏も「真剣に検討したい」と回答した。

 両首脳はこの席で「競争から協調」などの新たな3原則を確認した。習氏は日本の対中政府開発援助を高く評価してみせるなど、12年の尖閣国有化で悪化した両国関係は、平和友好条約40年を機に一定の改善を見せた形だ。

 棚上げされた課題も少なくないが、第三国での開発協力などを通じて共通の利益を探り、分かち合う関係を模索し続けるしかない。

 朝鮮半島では歴史的な米朝会談が開かれたが、非核化の歩みは遅い。トランプ政権は会談を成功と打ち出しているが、しびれを切らして対応を一変させないか、懸念されるところだ。

 日本は北朝鮮への圧力を維持するとともに、北朝鮮の後ろ盾となっている中国への働きかけを強める必要がある。

 内戦が続いたシリアからは米軍が撤退する。撤退を決めたトランプ氏に抗議する形で国防長官だったマティス氏は辞任した。中東での米国の存在感は確実に低下する。逆にロシアはシリアに残る。ロシアはイラン、イスラエルの双方とも良好な関係があり、中東での影響力が確実に高まろう。

■G20で一致できるか

 米国はイラン核合意から撤退し、各国に対イラン制裁を求めている。しかしシリアからの一方的撤退は対イラン圧力へも影響する可能性がある。対米協調は重要だが、中東情勢の変化に備え、日本はイランなどとの独自のつながりも大切にしていくべきだ。

 6月には大阪で20カ国・地域(G20)首脳会合が開かれる。

 公正で開かれた貿易や地球温暖化防止などの重要性について一致したメッセージを打ち出せるか。メルケル氏に次いで経験豊富な安倍首相の調整手腕が問われる。分断や対立ではなく、合意と妥協の中にこそ、世界の歩むべき道があることを示してもらいたい。