安倍晋三首相は新型コロナウイルス対策として、国民1人当たり10万円の現金を所得制限なしで一律給付する方針を決めた。

 緊急経済対策に一定の条件を満たした世帯への現金30万円支給を盛り込んだばかりだが、取り下げる。補正予算案を組み替える方向で検討するよう指示した。

 30万円支給は対象の線引きが複雑で分かりにくく、与党内からも多くの批判が出ていた。異例の方向転換である。

 感染拡大は進んでおり、国民生活への影響は深刻さを増す一方だ。政府に求められるのは、必要な人に着実に、一刻も早く支援の手を差し伸べることである。まずはそれを最優先にするべきだ。

 ここに来ての政府内や与党間の綱引き、迷走ぶりは国民の不安を募らせるばかりだ。はっきりした方針もないまま、対策を小出しにしている印象が拭えない。

 政策の柔軟な見直しは大切だが、一律給付となれば「生活支援」としてきた対策の前提が崩れかねない。

 世論の批判をかわすため、中途半端な判断を繰り返していると言われても仕方ないだろう。

 首相は15日に公明党の山口那津男代表から所得制限を設けない10万円給付の要請を受け、補正予算成立後に「方向性をもって検討する」と応じていた。

 リーマン・ショック時の「定額給付金」は多くが貯蓄に回ったとされ、ばらまき批判が噴出した。今回も同じことの繰り返しになる可能性がある。

 ほかにも課題は多い。一律給付であっても国民の手に届くまでに時間がかかる可能性がある。総額は単純計算で12兆円程度にも膨らみ、将来に大きなツケを残すことになる。

 いったん全員に給付した上で、所得が回復した人からは個人住民税の上乗せなどで事後的に回収することを提案する専門家もいる。知恵を絞るべきだ。

 給付は一過性のものであり、継続して雇用や生活を守るための簡素で分かりやすい仕組みを引き続き検討する必要がある。

 中小企業や収入が減った人からは「もう待てない」と悲鳴が上がる。現行の対策でも給付金支給は早くて5月の連休明け以降とされていた。予算組み替えでさらに遅れることが心配される。

 安倍首相は政策変更について国民に丁寧に説明して理解を求めるとともに、もっとスピード感をもって取り組むべきだ。