安倍晋三首相が、新型コロナウイルスの感染増加に対応する緊急事態宣言の対象地域を全都道府県に拡大した。

 感染者の急増は東京や大阪などの大都市圏だけでなく、地方の都市にも広がっている。4月末から始まる大型連休中を含め、人の移動を全国一斉に抑える必要があると判断したという。

 地方は感染症に対処できる病院や医療従事者が限られている。患者の急増による医療崩壊を防ぐ観点から、社会に広く警鐘を鳴らす意味は理解できる。

 だが、感染者が出ていない県があるなど、広がりは地域によってばらつきがある。対象を当初の7都府県から一気に全国へ広げたことには唐突感が否めない。

 根拠や基準に曖昧さ

 専門家で構成する政府の諮問委員会は、先行して7都府県を宣言対象に選定した際、累計の感染者数や、感染者数が倍増するまでの期間、感染経路が不明な例の割合の三つを基準に挙げていた。しかし、今回の宣言拡大はこれに当てはまらない。

 さらに、政府は新型コロナの基本的対処方針を改定し、特に重点的な対策を進める「特定警戒都道府県」という概念も創設した。先行7都府県に加え、感染者数が急増している京都府や北海道など6道府県を合わせた計13都道府県が該当するという。

 根拠や基準が曖昧なまま、警戒のレベルを上げても混乱や不安が増すだけではないか。政府は国民や事業者の協力が得られるよう、対象拡大の理由や狙いを丁寧に説明する必要がある。

 政府は2月以降、各地で発生するクラスター(感染者の集団)を封じる対策に注力してきた。米国や欧州に比べると持ちこたえてはいたが、4月に入ると、大都市周辺でも感染経路を追えない患者も目立つようになった。

 3月20日からの3連休で人の移動が増えたのが大きな要因とみられている。大型連休中には、帰省や旅行などで都道府県をまたいで人が移動する可能性が高まる。

 宣言を受け、各知事は法律に基づいて外出自粛や店舗の営業制限などを求めることができるようになるが、自粛や制限は要請のままで、罰則は伴わない。要請の効果を高めるには、市民の理解と自発的な協力をこれまで以上に得る必要がある。

 休業と補償は一体で

 都道府県によって判断が分かれるのは、地域経済への打撃が大きい休業要請だろう。

 京都府は宣言の拡大を受けて、きょうから遊興施設や劇場などに休業を要請した。対象の業種は先行して宣言地域になった大阪府や兵庫県と足並みをそろえたが、同時に打ち出した独自の支援金は、中小企業に20万円、個人事業主に10万円と、100~50万円を支給する大阪や東京都より低くなるという。

 休業要請を巡っては、幅広い業種を対象にしようとした都と、経済的な影響を懸念する国との間で混乱が起きた。

 都などは独自支援を決めたが、都道府県の財政力には差がある。自治体の要請で休業しても、補償の金額に差がついたり、支払われなかったりするようでは公平性を欠き、実効性を損なう。

 全国知事会が「補償とセットでなければ理解されない」と提言したのは当然である。事業者が休業に協力できるよう、政府は補償のあり方を検討してほしい。

 地域の医療態勢をどう維持するかの対策は最も重要だ。

 医療崩壊を防がねば

 患者の急増に伴って、すでに東京や大阪では感染症指定医療機関の専用病床が足りなくなった。院内感染への懸念から、救急搬送された患者が、病院に受け入れを断られるケースも相次いでいる。

 もともと日本は、重篤な患者に人工肺などを使って救命する集中治療室(ICU)の態勢が脆弱(ぜいじゃく)だと指摘されている。人口10万人あたりの病床数は、医療崩壊で多数の死者が出ているイタリアの約半分にとどまる。

 滋賀県ではコロナ対応の病床45床が14日までにほぼ埋まり、軽症者に自宅での待機を要請したことを明らかにした。京都府は対応病床を今月中に250床まで倍増させる方針で、無症状者や軽症者には借り上げたホテルで療養してもらう取り組みも始めた。症状に応じた患者の振り分けは今後重要になろう。

 医療現場からは、医療用マスクなど感染防護具も不足しているとの声が上がっている。医師を対象にした民間企業のアンケートでは、勤務先の医療機関で院内感染対策ができているとの回答は4割にとどまった。

 院内感染が起きれば地域医療は機能不全に陥りかねない。国と自治体は現場の窮状に耳を傾け、医療崩壊の阻止へあらゆる手だてを総動員して対策に全力を挙げるべきだ。

 全国一律の宣言は、警戒感を高める一方で、住民生活を大きく制約する可能性がある。感染爆発を防ぐ重要局面ではあるが、行きすぎた措置とならないよう、政府や各知事は配慮する必要がある。